-点滴作り置き事故に思う-
6月はじめ、三重県伊賀市の整形外科診療所で、鎮痛剤などの点滴を受けた10数人の患者さんが腹痛や発熱などの症状を訴え、うち一人の方が亡くなられる、という医療事故が発生しました。
県などの調査の結果、① 腰痛症や頸肩腕症候群などにノイロトロピンを使用したようであるが、濃度や量を間違えた可能性は低い、② 発症者は60~80代の体力の落ちた高齢者に集中している、ことなどから、点滴で細菌感染が起きたのが原因とされました。
そして、点滴液は、看護師が作り置きしていたもので、毎朝、薬剤10~30人分を作り置きし、追加製造する際は10本分をまとめて作る、余ると机上に置いたままにして、次の診療日に使っていたということです。また、点滴液の調製の日時などの記録はなかった、とのこと。患者が多く、多忙を極めていたため、このような杜撰な薬剤管理になったようです。
さて、同院のホームページを見てみますと、どうやら薬剤師は配置されていなかったようです。ですから、この病院では、1日100人に点滴を行っていたということですが、生理食塩液への鎮痛薬、ビタミン剤の混合、調製などは、看護師が受け持っていたようです。
さて、医療法第18条に次のような規定があります。
第十八条 病院又は医師が常時三人以上勤務する診療所にあつては、開設者は、専属の薬剤師を置かなければならない。但し、病院又は診療所所在地の都道府県知事の許可を受けた場合は、この限りでない。
つまり、常時2人以下の医師が勤務する診療所では、薬剤師を配置する必要はない、とされています。実は、この規定は有床診療所にも同様に適用されています。有床診療所には当然、入院患者がいます。しかし、厚生労働省の調査では、一般診療所のうち12,858診療所(平成18年)ありますが、そのうち、薬剤師の配置されている診療所は1割程度に過ぎません。
今回、事故を起こした診療所は無床診療所。この規定は昭和20年代からある規定であり、医薬分業を前提としたものであることからこのような規定になっているのかもしれません。しかし無床診療所といえども、院内の薬剤使用についても高度な薬剤管理知識が必要となっている今日、医療法が時代の進歩についてきていないことを感ぜざるを得ません。一方、有床診療所は、従前、医療法に、入所患者の48時間入院期間制限の規定がありましたが、平成19年1月1日より撤廃されました。つまり、病院と同様に長期の入院が可能となったわけです。にもかかわらず、この薬剤師配置の規定は変わっていないのです。
点滴や注射剤だけでなく点眼薬など無菌的な処理を必要とする薬剤の調製を行う場合には、細菌汚染に対する厳しい管理をおこなうことは、薬剤師にとっては常識といってよいでしょう。今回の事故を、行政でも、マスコミでも、そして国会においても、医療法そのものの問題点が議論されることなく、ある管理杜撰な一診療所において起こった事故としてしか取り上げられていないことを、私は残念でなりません。