藤井基之の国会レポート2003(その8)

今年は冷夏、お盆が来ても、梅雨どきのような曇天と雨が続き、肌寒ささえ感ずる毎日。日照時間が短く、米の収穫が心配される夏となってしまいました。やはり、夏は、焼きつくような太陽が照り、入道雲が紺青の空に盛り上がり、蝉の声がやかましく聞こえなくてはなりません。

 第156回通常国会は40日間の延長を加え、190日の会期を終えて7月28日、閉会しました。イラク関連法案など難しい法案もあり、難航を予想された国会でしたが、平成15年度予算が年度内成立したのを始め、提出された190の新規法案、50の継続法案,2承認案件、9条約が審議され、138法案が成立しました。内閣が新規に提案した法案は121法案でしたが、そのうち118法案、97.5%が成立、これは戦後の国会では第3位に当たる好成績だそうです。重要法案としては、武力攻撃事態法等有事三法、イラク復興支援特別措置法、個人情報保護法関連五法、食品安全基本法等がありました。

 さて、通常国会の閉会に伴い、永田町では、にわかに解散、衆議院選挙ムードが高まっています。9月には自民党の総裁選挙がありますが、総裁選後、臨時国会が召集され、テロ特別措置法等の審議を終えて、解散では、との見方が強まっていますが、まだ不確定です。

 そして、9月からはいよいよ年末の来年度予算編成に向けた攻防も始まり、規制緩和、年金や医療費改定等の議論も活発化して行きます。

 その来年度予算の編成方針について、内閣は8月1日、「平成16年度予算の概算要求に当たっての基本的な方針」を閣議決定、また、概算要求標準、いわゆるシーリング枠を発表しました。シーリング枠とは、来年度予算の伸びの上限枠を政府が各省に示したものですが、社会保障関係費についてもシーリングの発表がありました。それによりますと、来年度社会保障関係費(義務的経費)は、その伸びを6900億円の範囲内に収める、としています。

 社会保障関係費は、年金給付費や医療費の給付等の義務的経費がありますが、これらは、毎年、医療費の引上げ等がなくても自然に増加しています。高齢化の急速な進行等がその要因です。例えば、国民医療費は、平成13年度、31兆 3234億円であり、前年度の30兆3583億円に比べ9651億円、3.2%の増加となっています。

医療費改定は、平成14年4月に行われており、平成13年度には医療費引上げ等の要因はありませんでしたが、1兆円近く国民医療費は伸びています。このような増を「自然増」と呼ぶわけですが、財務省は、高齢化、医療医術の高度化等による平成16年度の自然増のうち、国庫負担の増加を9100億円と見込み、それを"いろいろな方策"を講ずることにより、6900億円にまで、つまり約2200億円程度を圧縮するとしています。

 では、いろいろな方策とは何かですが、例えば、年金の給付額の引き下げが案として上げられています。国民年金については、その給付額は物価スライドすることとされていますが、デフレ経済下、物価は下落傾向にあります。しかし、特別措置によって給付額は下げることなく凍結されてきました。そこで、この凍結を解除し、つまり過去3年間の特例措置分も含めて物価にスライドさせて年金給付額を引下げることにより、1100億円を浮かす、という提案です。

 しかし、これだけではまだ1000億円程不足しますが、これをどのような政策によって節約するのかについては触れられていません。ただ、経済財政諮問機会議は、7月29日、「平成16年度予算の全体像」というペーパーを公表、その中で、「診療報酬・薬価については、近年の物価・賃金の動向を踏まえたものとする」としています。
 つまり、診療報酬、薬価の引下げもあり得ることを示唆しているわけです。医療費改定、薬価改定の検討は、中医協を中心として秋から年末にかけて、予算編成と併行して進んで行きますが、三師会では、早々に諮問会議に対する反対の表明をしています。医療費引下げとなった場合、2回連続のマイナス改定となってしまいます。今後の中医協等の動きに注目して行く必要があります。 また、規制緩和について、既にご報告したように、来年度の予算の基本方針を示した「骨太2003」でも取り上げられています。そのうち、一般用医薬品の販売規制の緩和については、今年中に厚生労働省がそのための方策について決めることになっています。これもまた、その検討の方向等について注目しておく必要があります。

 以上に加え、来年度の公的年金制度の見直しに向かって年金についての議論も次第に活発化しています。坂口厚労大臣が、将来の保険料の抑制と給付の確保のために、143兆円の年金積立金の取り崩しも案の一つとして取り上げていることを示唆されていますが、年金改革の議論は、当面の物価スライド特別措置の解除も含め、これからの大きな課題です。 

 夏の間のしばしの静かなとき、波乱も予想される秋から年末に備えて、英気を養っておきたいと思います。
          
[haiku="水打つて 広重の空 はじまりぬ  ( 加藤楸邨 ) "/haiku]