国会レポート2003(その7)
7月です。まだ梅雨空が続き、また、少年犯罪などやりきれない話題もありましたが、一
方、海の向こうの大リーグでは、イチロー,松井、長谷川の三選手がオールスター戦出場、
日本中に明るい話題を提供してくれました。
さて、第156回通常国会は,昨年に続き40日間会期が延長されました。延長国会の焦点で
ある「イラクにおける人道復興支援活動及び安全確保支援活動の実施に関する特別措置法」
は、7月4日に衆議院を通過し、7月7日、参議院での審議が始まりました。イラクでは、なお
米英軍へのゲリラ的攻撃が続いており、自衛隊派遣の安全を巡って外交防衛委員会を中心に
、厳しい審議が続いています。
<骨太と規制改革>
6月27日(金)、「経済財政運営と構造改革に関する基本方針2003」、いわゆる「骨太の基本方針2003」が閣議決定されました。2001年に小泉内閣が発足以来、毎年この時期に、「骨太の基本方針」が発表されてきました。7月は、各省庁で、次年度の概算要求案作成の大詰めの議論が行われており、政府が予算編成の基本方針を示す時期であり、今年もまた骨太2003が発表されたわけですが、今年の骨太は、第三弾ということになります。
骨太は、表題の通り、「経済財政運営と構造改革」の政府の基本方針を示したもので、冒頭に、構造改革の基本理念は「改革なくして成長なし」、「民間でできることは民間に」、「地方でできることは地方に」である、とうたっています。そして、第1部 日本経済の課題、第2部 構造改革への具体的な取組み、第3部16年度経済財政運営と予算のあり方、の3部構成となっています。
冒頭の文言通り、骨太の中心テーマは「構造改革」で、7つの改革と銘打って、
改革1 規制改革・構造改革特区、
改革2 資金の流れと金融・産業再生、
改革3 税制改革、
改革4 雇用・人間力の強化、
改革5 社会保障制度改革、
改革6 国と地方の改革、
改革7 予算編成プロセスの改革
が挙げられています。
そのうちの規制改革について、例年と違い今年の骨太では、「構造改革の具体的な取組み」として、規制緩和重点検討項目として、次の12の項目が挙げられています。
○ 株式会社等による医療機関経営の解禁
○ 保険診療と保険外診療の併用の拡大
○ 医薬品販売体制の拡充
○ 新しい児童育成のための体制整備
○ 公立学校の管理・運営の民間委託
○ 株式会社等による農地取得
○ 労働者派遣の医療分野への適用拡大
○ 大学・学部・学科の設置等の弾力化
○ 高層住宅に関する容積率の緩和
○ 職業紹介事業における地方公共団体・民間事業者の役割の大巾拡大
○ 株式会社による特別養護老人ホーム経営の全国展開
○ 株式会社による農業経営(農地リースの方式)の全国展開
規制改革については、総合規制改革会議で進められていますが、これらの重点項目は、同会議のアクションプラン実行ワーキンググループが「規制改革ワーキングプラン・12」の重点検討事項として、取り上げているものです。同会議は,規制改革推進3ヵ年計画を毎年見直しすることになっており、例年7月に中間答申を行い、年末に最終答申を行ってきましたが、今年は、その中間答申に先立って、骨太2003の課題の一つとして同会議の重点検討項目を具体的な構造改革のメニューとして取り上げました。そして同会議は、その骨太2003を補足する形で、7月11日、『「規制改革推進のためのアクションプラン・12の重点検討事項」に関する答申』を出しました。
さて、12項目のうち、最も社会的な関心を呼んだ項目は、ご承知のように「医薬品販売体制の拡大」でした。「医薬品のコンビニでの販売」という言い方が、一般国民に分かりやすく、身近なテーマであり、マスコミが規制緩和のシンボルのように扱ったためでしょう。
骨太では,一般用医薬品の規制緩和について、次のように方針を示しています。
( 医薬品販売体制の拡充 )
医薬品の一般小売店での販売については、利用者の利便と安全の確保について15年中に十分な検討を行い、安全上特に問題がないとの結論に至った医薬品すべてについて、薬局・薬店に限らず販売できるようにする。
一方、総合規制改革会議の7月11日の中間答申では、上記の骨太の記載をそのまま掲げ、次のようにいっています。
「人体に対する作用が比較的緩やか医薬品群については、少なくとも特例販売業や配置販 売業と同様に、薬局・薬店以外のコンビニエンスストア、チェーンストアなどの一般小売 店においても早急に販売できるようにすべきである」
一般用医薬品の販売規制の緩和については、大変厳しい議論が続いて来ました。党の厚生労働部会でもしばしばこの問題が取り上げられ、部会の意見として「反対である」ことを党政審等に申し入れました。小泉首相、坂口厚生労働大臣、石原行政改革担当大臣、のトップ会談でも、最後までこの問題が議論されました。この間、日本薬剤師会、全日本薬種商協会等が中心となって、反対運動も展開されました。
結局、骨太では上記のような形で方針が示されることとなりましたが、薬事行政を所管する坂口厚労大臣と規制緩和担当の石原行革大臣の考え方では、ニュアンスは大きく異なります。6月23日の衆議院予算委員会での次のような質疑応答で、両大臣の考え方がよくわかると思います。
まず、石原大臣は、医薬品のコンビニでの販売自由化についての質問に対し、「安全上問題が特にないものは、医薬品のまま、同じ医薬品の成分で薬局・薬店以外でも買えるようにするという踏み込んものだと,私は思っています。」「そして問題は、それでは一体どういうものが売れるのかということでございます」「コンビニで買う方は一体どういう方だろうということを考えなきゃならないと思います。すなわち利用者の利便性です。電車で夜遅く帰ってきた。薬局も開いていない。ちょっと熱がある、そんなときに解熱剤がほしい。あるいはちょっと飲み過ぎてしまった、お腹がいたい,胃腸薬がほしい。そういうものはやはり買えるようにしていただけるように、坂口大臣に結論を出していただきたい」
と回答しておられます。
一方、坂口大臣は、
「いわゆる医薬品、(コンビニで)売れないものは1万4000種類なんですよ。だからその中で、またコンビニ等で売っていただいてもいいものを選び出そうということでございまして、それをやりますのは、これはやはり厚生労働省が検討会を作りまして、外部の皆さん方、研究者の皆さん方にお入り戴いてこれは大丈夫かどうか、ということでこざいます。」「そこを振り分ける今までの基準というのは何か、と言えば、それは副作用があるかどうかです(中略)。それから効き目がなだらかな効き目であるかどうか。急激に効くのはこれはやはりこわいですよ。」、「やはり副作用があるかないかということの基準は、これは緩めるわけにはいかないと私は思うんです。この基準は明確にしながらも、しかし、緩やかに効いていくといったようなものは、これは副作用も少ないわけでありますから、できるだけ薬局以外のところでも売れるようにしたいというふうに思いますが、そこはしかし、一つの限界があると
いうふうに思っております。」
コンビニ等の一般小売店で、医薬品を販売できるようにするためにはいくつかの方法が考えられますが、骨太の方針では、安全上問題がないと判断されたものを、どのような方法で、コンビニ等で販売できるようにするかは明記していません。このため、薬事法が改正されることになるのか、改正せずに、既存の方法(医薬部外品制度、特例販売業許可制度等)を利用して緩和するのか、現時点ではわかりません。坂口厚労大臣は、国会審議で「平成15年末までに決着をつける」と言っています。
規制改革の目的は、規制緩和によって市場競争を促し、経済の活性化を図るということのはずですが、医薬品の場合、たとえコンビニ等の一般小売店での販売を自由にしたところで市場の拡大は望めません。コンビニで風邪薬を売ったところで,風邪が流行るわけではないのですから、市場が大きくなることはあり得ないのです。党の部会でも「経済的効果があるのなら、それをデータで示すべき」との意見を出しましたが、それに対する回答はありませんでした。実は、石原大臣の国会答弁等をみても、「国民にとって便利」という便宜性だけをその理由に上げており、経済効果については触れていません。
では、医薬品の購入に国民は不便を感じているのでしょうか。総合規制改革会議は、社団法人日本フランチャイズチェーン協会の調査によれば、70.1%の人がコンビニでの医薬品販売を期待していると回答しているとしています。しかし、これは夜間コンビニを利用している人たちに対する、「インターネット」によるアンケート調査であり、とても大勢の意見といえるものではありません。又,仮にそうだとしても、それならコンビニが薬事法の販売業許可を取ることこそ、それらの人たちのニーズに応えることではないでしょうか。
それらの人々は、「薬についての知識がなくてもよいから、とにかくコンビニで売ってくれ」、といっているのでしょうか。坂口大臣は、国会で「現在でも,コンビニあたりでどれだけ売ってもらっていいんてすよ。ただ,それなりの人を置いてほしいということを申しあげているだけでございます。」と言われています。現に、医薬品販売業の許可を取っているコンビニもあるのです。規制緩和とは、実はその「手間をはぶきたい」と言っているだけのことではないか、と考えてしまいます。夜間休日の販売体制の強化が必要というのであれば、まず、薬局薬店の体制整備を求めることが先でしょう。まずコンビニありきの主張は、飛躍した議論ではないでしょうか。
骨太第1弾の基本方針の概要に、「努力した人が夢と希望を持てる社会に」とあります。医薬品という生命関連商品を取り扱う仕事だからこそ、薬剤師、薬種商販売業の資格を取得するために、多くの人々が懸命の努力をしてきました。その努力を無にしてしまうような施策と、この骨太の基本方針とはどう整合が取れるのでしょう。一般用医薬品の有効性、安全性を守ってきた現在の販売規制制度の趣旨を踏まえ、21世紀にふさわしい一般用医薬品の適正な流通のシステムを構築することこそ、私の政治的使命と考えています。
<次世代育成対策推進法>
少子高齢化が急速に進み、日本の人口は2006年をピークとして減少期に入り、2050年には 、ちょうど1億人になる、と人口問題研究所は予測しています。2001年の年間の出生児数は194万人ですが、2050年66.7万人まで半減すると見込まれています。余りに急激な人口の減 少は、日本社会や経済の活力に大きな影響を及ぼすと考えられます。そこで、少子化対策 の推進を図るため、次世代育成対策推進法案が今国会に上程され、全会一致で可決、成立 しました。
同法は、子供を生み育て易い社会環境を作ることに主眼が置かれています。このため、国、自治体,企業が一体となって次世代育成のための支援態勢、環境づくりをすることとし、そのための指針を国が作り、これにしたがって自治体、企業が行動計画を策定し、集中的、計画的に対策を進めるとしています。企業には、子供を生み育てることを支援する職場環境づくり、例えば育児休業等を取りやすくする、等の努力をすることが義務付けられています。
子供を生み育てる、ということは、人生観、価値観等、個人に係る問題です。戦前のように、生めよ、増やせよという国家政策を国民に押し付けることはできません。しかし、将来の年金、福祉、医療制度にまで影響を与える問題であり、子供を生み育てるということの社会性を、もっと国民に理解してもらう必要があるという意見もあります。
今回の法律は、あくまで、子供を生み育て易い環境、支援体制づくりを目指すものであり,その意味では、根本的な解決策とは言えない、との意見も強く、自民党では「少子化問題調査会」を設置しました。子供を生み育てることの喜びを実感できるような社会づくり、という視点から党内でさらに議論が続けられることとなります。
[haiku="紫陽花の 浅黄のままの 月夜かな (鈴木花蓑)"/haiku]