臨床研究に法的規制

通常国会の会期も残すところ一月余りとなりました。厚生労働省関係では、国民健康保険法等の改正案が成立しました。また、文部科学省関係では、新たに「スポーツ庁」を設置する文部科学省設置法の改正案、2020年開催の東京オリンピック・パラリンピック競技大会の特別措置法及び2019年開催の世界ラグビーワールドカップ大会の特別措置法が成立しました。国会は安全保障関係法案が提案され、早期成立を目指す政府与党と慎重審議を求める野党との激しい論戦も始まり、会期延長は必至の情勢となっています。

さて、厚生労働省では臨床研究に対する法制化の検討が行われています。臨床研究のあり方については、一昨年のノバルティスファーマ株式会社の高血圧症治療薬ディオバンの市販後大規模臨床研究による不適正事案の状況把握と再発防止を目的として設置された「高血圧治療薬の臨床研究事案に関する検討委員会」の報告書において、我が国の臨床研究の信頼回復のために、臨床研究の質の確保、被験者の保護、製薬企業の資金提供等に当たっての透明性確保などの観点から、臨床研究に対する法制度の必要性について検討を進めるよう提言しました。これを受けて厚生労働省は、「臨床研究の制度の在り方に関する検討会」を設置し、その検討結果報告書が昨年12月に公表されました。

検討会の報告書によれば、臨床研究の課題への対応には、研究者等による自主的な取組は重要であるものの、我が国の臨床研究に関する信頼回復のためには、現状の倫理指針の遵守だけでは十分とはいえないとして、欧米の規制を参考に一定の範囲の臨床研究について法規制が必要としています。しかしながら、過度の法規制を導入した場合には研究の萎縮をもたらすなどの影響が懸念されることから、法規制による対応のみならず、研究者等による自助努力や法規制によらない対応方策とのバランスを図ることが重要であることも強調しています。

厚生労働省が5月12日の自民党の厚生労働部会に示した法制化の枠組案では、「未承認・適応外の医薬品等を用いた臨床研究と医薬品等の広告に用いることが想定される臨床研究を対象に、厚生労働省の定めた臨床研究実施基準へ適合していることについて、厚生労働大臣認定の臨床研究審査委員会の意見を聴かなければならないこと。及び当該臨床研究に係る資金提供状況の公表を製薬企業に義務付けること。」としています。

臨床研究による一連の不適正事案を考慮すれば法的な規制も必要とは考えますが、医療機関等において適切に臨床研究のできる体制等を整えることが、何よりも大切ではないかと思います。