藤井基之の国会レポート2002(その10)
秋も深まり、国会周辺の銀杏も色を増しつつあります。今年は台風の当たり年だったようで、9月から10月にかけて台風が近づくごとに涼しくなったり、暑さがぶり返したりの日々が続きました。それでも日一にちと日は短くなり、"秋の日は釣瓶落し"、を実感しています。
さて、臨時国会は、10月18日から開始されることとなりました。通常国会から2ヶ月半ぶりの開催ですが、この間、実に様々なことがありました。
特に、小泉首相の北朝鮮訪問をきっかけとして、北朝鮮による日本人拉致問題が俄然大きな問題となりました。北朝鮮による拉致が疑われていた12人の方々は、やはり拉致が事実であることがトップ会談で確認されました。しかし、それらの人々の消息にかかわる情報は、新たに多くの疑問を生んでいます。
そして、これらの方々以外にも多くの拉致の疑われる人々がいる可能性も高まってきました。実は、私の知人の中にも、20年余り前、御子息が理由も不明のまま行方不明となり、未だ消息不明の方がおられ、今回の拉致問題から、もしやと考え外務省に連絡しましたが、一連の拉致問題は全体主義国家、独裁国家の恐ろしさを、如実に物語っています。
また、10月の上旬には、政府の不良債権早期処理方針をきっかけに株価がバブル崩壊後最安値をつけるなど、我が国の経済の低迷は依然として先行き不透明の情況にあります。そんな中で内閣改造が行なわれ、そして臨時国会が召集されました。今臨時国会では、景気対策、北朝鮮問題、対イラク問題等外交問題と並んで、医療制度抜本改革も重要な課題となりそうです。
その医療制度抜本改革については、既にご報告したように党内に5つのワーキンググループが設けられ、国会閉会中も議論が進められて来ました。議論が進むにつれ、抜本改革のメニューのうち今後の中心課題となるのは新高齢者医療制度の創設と、保険者の強化、統合・再編であることが見えてきたように思います。
まず、新高齢者医療制度ですが、4つの基本的な案、及びそれらの案の派生的な2つの案があります。ワーキンググループとしては、まず社会保険方式とすることを基本に、1) 高齢者独立保険方式、2) 突き抜け方式・年齢リスク構造調整方式、の2つの考え方を中心に議論して行くこととなりました。
高齢者独立保険方式とは、高齢者については国保、健保のように制度を分離せず、一元化し、一つの制度とするというものです。また、突き抜け方式・年齢リスク構造調整方式は、健保加入者は高齢になってもそのまま健保加入者とし、また国保加入者もそのまま国保加入者とする(つまり、突き抜け)こととする、ただし、高齢者の人口構成比率等によって両制度間で財政的な調整を図る、というものです。
これらのうちどちらの案を取るか、あるいは他の案を選択するか、結局、財源問題に帰着します。社会保険方式とする以上、高齢者から保険料を徴収することになるわけですが、今後の人口の高齢化、生産人口の減少を考えますと、高齢者の保険料だけでは間に合いませんから、何らかの形で現役層からの支援を行うことになる。また、公費負担も80%、90%といった高率の負担を考えなければならない。患者負担をどうするか…。国民にできるだけ負担がかからないようにすることが制度創設の前提ですが、しかし、それは簡単なものではありません。
このような議論の最中、坂口厚生労働大臣が、もう一つの重要課題である保険者の統合・再編を中心とした医療制度改革私案を公表されました。国保や政管健保だけでなく、組合健保の中にも財政的に窮迫している組合も見られ始めた今、保険者の強化は、抜本改革の大きな柱の一つとされています。坂口私案では、健保、国保とも都道府県単位の運営に変えてゆき、将来的には制度の一元化を目指すという考え方ですが、これに対し既に異論も出始めているようです。
10月2日、国会の閉会中でしたが、私は決算委員会で、介護保険問題について質問いたしました。その際、介護保険料の引き上げに関連して、今後の介護保険給付費、要介護者数等について、厚生労働省から、2025年には要介護・支援者数は530万人(現在約300万人)に上り、介護給付費は20兆円に達すると見込まれるとの説明がありました。医療保険抜本改革は、介護保険制度も含めて議論を行う必要があると強く感じました。
高齢者医療制度、保険者のあり方等、抜本改革のメニューに関する党の報告書は、年内にはまとめられることになっています。一方、厚生労働省は、坂口私案も踏まえて11月中には同省案をまとめることとしています。国民皆保険を守るために何をすべきか、医療制度抜本改革は、これから本格的な議論に入ることとなります。
ところで10月9日(水)、議員連盟の一つである薬剤師問題議員懇談会に設けられた「薬剤師養成問題検討チーム」の会合が持たれました。これは、医薬分業や病院薬剤師による病棟活動が進む中、薬剤師の修業年限の延長、すなわち6年制について議論するための議連のワーキングチームです。
第1回目の今会議では、文部科学省、厚生労働省、そして日本薬剤師会からも出席し、それぞれの考え方が説明されました。その後、フリートーキングが行なわれましたが、大変活発な議論が行なわれました。
その中で、特に今後の議論に影響を与える新たな課題として、文部科学省が検討している「専門職大学院」構想についての議論がありました。「専門職大学院」とは、中央教育審議会の答申に基づいて、文部科学省が検討してきた「高度で専門的な職業能力を有する人材の養成」に特化した新たな大学院で、この臨時国会でそのための学校教育法の改正が審議されることとなっています。
具体的には、いわゆるロー・スクールが先行することとなりそうですが、今後、専門分野を問わず設立して行くこととされています。つまり、将来的には、医学、歯学、薬学についても専門職大学院構想が出て来る可能性もあるわけですが、しかし、医療に係わるこれらの学科はまさに専門職の養成のために設けられた大学です。
これらの分野における専門職大学院の意味をどう考えるか、検討する必要があるでしょう。いずれにしても、薬剤師養成教育の年限延長問題はその要否の議論を終え、今後どのような形で実現して行くか、議論は一歩進んだという印象でした。
今年もあと2ヶ月半を残すのみとなりました。臨時国会、医療制度改革審議、年末の来年
度予算編成と続きます。頑張ります。
[haiku="雁よりも 高きところを 空という ( 今瀬剛一 )"/haiku]