藤井基之の国会レポート2002(その8)

8月に入り、日本列島は暑さを急速に増しています。国会も7月31日に閉会し、夏休みに入りました。しかし、閉会中も、医療制度改革や来年度予算案等を巡って、しばしば党の会合がありそうです。が、臨時国会の始まるまでのしばらくの間は英気を養うと時間としたいと思います。

 さて、通常国会閉会間際の7月25日、26日、健保法等一部改正案、健康増進法案、薬事法等の一部改正案が相次いで、国会で可決,成立しました。薬事法改正案は、与野党挙げて全会一致の改正でしたが、健康保険法等の一部改正案は,最後の最後まで与党も含めて賛否両論が渦巻きました。健保法等の一部改正案の採決は、参議院厚生労働委員会、本会議とも、結局、与党の単独採決による可決,成立となりました。

 今回の健保法等の一部改正案では、健保本人の患者負担を2割から3割に引き上げ、また、老人保健の対象者の患者負担を病院,診療所とも定率1割とし、診療所の定額制は廃止、また、患者負担の月額上限制も廃止することとなりました。保険料についても、賞与からも保険料を徴収する、いわゆる総報酬制が採用されることとなりました。このように、国民に負担をお願いする法案であっただけに、今回の改正案の策定、そして国会審議では、大変な議論が巻き起こりました。

 今回改正案の骨子は、昨年11月29日に発表された政府・与党社会保障改革協議会の「医療制度改革大綱」で策定されました。構造改革、行政改革を断固推進するとの小泉首相の骨太の基本方針にしたがって、医療制度改革大綱は、三方一両損をキーワードに、患者負担の引き上げ、保険料の引き上げ、そして平成14年度の国家予算編成方針として診療報酬の引き下げ、を掲げました。この大綱に対する議論を皮切りに、14年度国家予算案の編成、本年始めの健康保険法一部改正案の策定、そしてこの通常国会での審議と、8ヶ月にわたる議論が続いてきたわけであります。

 私は、与党自民党所属議員として、党厚生労働部会、医療基本問題調査会における党内議論、そして国会の参議院厚生労働委員会の委員として議論に参加し、審議の経過をつぶさに見させて頂きました。国会での採決では、野党欠席のまま、与党単独採決となりましたが、法案が国会に上程される前の党内議論は、前回活動報告にも書かせていただきましたように、それは激しいものでありました。国民に負担を強いる前に、改革、合理化すべきことがあるのではないか、医療制度の抜本改革の具体的な方向を示さないうちは、国民の理解が得られないではないか。国会での野党の質疑以上に厳しい議論が、自民党内で行なわれました。しかし、医療制度を抜本的に改革し、国民皆保険体制を揺るぎないものとするために検討すべきとされている課題は、医療保険の一元化、保険者の統合再編、高齢者医療制度の創設、医療提供体制のあり方の見直し、公的病院の役割の見直し、診療報酬体系の見直しなど、どれをとっても国民的議論を必要とする困難で厳しい問題ばかりです。これらの具体的議論を進めることとして、当面の政管健保財政をどう立て直すか、増加する赤字健保組合の財政をどう強化するか、結局、議論はそこに帰着します。

 そのような議論の中、小泉首相の、健保本人の患者負担3割への引き上げ等の施策を断固来年4月に実施する、という強い基本方針が打ち出されました。その結果、自民党は責任与党として、今回改正案の国会への上程を承認したわけであります。それはまさに苦渋の選択でありました。その条件として、新高齢者医療制度の創設、保険者の再編・統合、医療提供体制の見直し、診療報酬体系の見直し等の医療制改革の課題の検討を推進することを、国民への約束として、改正案の附則として規定することとしました。この間のマスコミの反応は、小泉内閣の構造改革に族議員が抵抗している、という批判でした。しかし、法案が通ってみると、マスコミが抵抗勢力として指弾してきたことと同じ論調を、今度はマスコミが主張しているのは皮肉なものです。

 7月25日の参議院厚生労働委員会及び同26日の本会議の採決において、私は、健保法一部改正案に対し賛成票を投じました。既に改正案が衆議院を通過し、審議が参議院に移った段階で、日本医師会、日本歯科医師会、日本薬剤師会の三師会が、改正案に対する反対声明を出されました。このため、私も薬剤師議員として今回の改正案について、改めて熟慮いたしました。医療制度の抜本改革を進めることは当然のこととして、現実論としてそれには厳しい議論と時間を要するであろう、その議論が尽きるまで、現在の保険財政をそのままとしておいてよいのか、国民に負担を求めることのないウルトラC ともいうべき方策はあるのか。

 熟慮の結果は、世界に誇る国民皆保険体制の堅持を第一とするべきである、そのためには、健保財政の当面の建て直しをまず行うこと、あわせて医療制度改革の議論を推進するという党の方針に従うことでした。また、今改正では、健康増進法案が提出されましたが、私は、国民皆保険体制を守るためには、財政対策だけではなく、生活習慣病を予防し、健康な長寿社会を作るための施策を同時並行的に推進する必要があると強く思いました。

 7月18日の厚生労働委員会で、私は1時間の質問時間をいただきました。そこで、私は、健康増進対策、生活習慣病対策の重要性を主張するとともに、健康日本21を国民運動として盛り上げ、実効あるものとするためには、薬局のような民間の医療、保健関連施設の積極的活用を図ることこそが重要であることを、実例を上げながら強く訴えました。

 政治家1年生の締めくくりに際し、私は、究極の決断を迫られる体験をいたしました。国民のお気持ち、医療機関や薬局の皆様のご苦労に思いを致すとき、私にとりましても、今回の決断は苦渋の選択そのものでありました。党内には、医療制度改革の議論の場として、

1) 政管健保のあり方を含めた保険者の統合、再編
2) 新しい高齢者医療制度の創設等制度体系の見直し
3) 診療報酬体系の見直し
4) 医療提供体制の改革
5) 社会保険庁等の改革

の5つのワーキンググループが設置され、議論が始まっています。私のこれからの責任は、今後の医療制度改革に、私の一身を懸けて邁進することであると肝に銘じています。

 最後に、いくつかのご報告をいたします。まず、国会会期の最終日7月31日、食品衛生法の一部改正案が緊急審議され、可決、承認されました。実は、中国産のほうれん草等に日本の基準を上回る残留農薬が検出された事件を契機として、「輸入時の検査等により、食品衛生法違反となる食品が輸入、製造される恐れが高い場合、特定の国の食品の輸入、特定の製造業者の食品の製造を包括的に禁止することができる」こととする食品衛生法の一部改正案が検討されていました。この改正案が、緊急に国会に上程され、承認されたものです。

 先に、私は、党の「食品衛生規制に関する検討小委員会」への参加を命じられ、「食品の安全に関する信頼確保のための改革の提言」をまとめるお手伝いをしました。その提言書に、この包括的輸入禁止措置を食品衛生法に規定すべきとの提言も盛り込まれていました。そのため
今回の食品衛生法の緊急改正について、野党への説明等お手伝いさせていただいてきました。
それだけに、今回の緊急改正は、苦労が報われた思いがし、真に感慨深いものがありました。

 また、国会閉会後の8月8日、参議院決算委員会が開かれ、30分間の質問時間をいただきました。今回は、中国製やせ薬事故に端を発した健康食品問題を取上げ、健康食品に対する新しい規制が必要ではないか、医薬品の個人輸入代行業は法的規制の対象とすべきではないか等、政府の見解を質し、検討を要請しました。

 以上、まだまだ未熟な、至らぬ私でありますが、今後とも、与えられた仕事に全力で取り組み、皆様方のご期待に応えることのできるよう努力してまいる所存です。どうか、皆様のご叱正とご指導をいただきますよう、よろしくお願い申し上げます。

[haiku="岩の上の 大夏木の根 八方に (高浜 虚子)"/haiku]