藤井基之の国会レポート2002(その9)

秋も次第に深まりつつあります。有事法制、郵政三事業、健保法の一部改正等を巡って熱い議論が戦わされた通常国会が終わって早2ヶ月近くが経ちましたが、まだ今のところ、臨時国会の召集日程については分かりません。小泉首相の北朝鮮訪問もあって、政局は今、北朝鮮との関係に関心が高まっています。一方、昨年9月11日の米国における同時多発テロから1年、新たなテロの発生に対する警戒感、そしてイラクの大量破壊兵器の開発疑惑に対する米国等の動きとに世界の目が集まっています。

 さて、国会は閉会中ですが、党の各委員会、部会の活動を中心にいろいろな動きがあります。厚生労働委員としての私の最大の関心事は、健保法改正後の医療抜本改革の動きでありますが、今後の臨時国会、通常国会でも国会審議の重要課題となるでしょう。

 自民党内では、厚生労働部会5つのワーキンググループが設けられ、議論が進められています。既にご報告したように、改正健保法では今後の医療制度抜本改革において、何を、いつまでに検討するのか附則で検討課題を規定しています。今回の健保法改正が、国民の負担を求めるものであっただけに、国民に対し、医療制度改革を進めることを約束する意味で、この附則の規定が設けられしまた。党の厚生労働部会に設けられたワーキンググループは次の5つです。

1)保険者の統合・再編
2)診療報酬体系の見直し
3)医療提供体制の見直し
4)社会保険庁等の改革
5)新高齢者医療制度の創設

 国会閉会中もこれらのワーキンググループが党本部で随時開かれており、それぞれのワーキンググループは、年内を目処に、自民党としての政策の原案をまとめる方向で議論を進めています。私は、これらのワーキンググループに、できるだけ出席するように努めています。そこで、今までにワーキンググループを通じて、どのような議論が行われているか、大筋の議論の流れをご紹介します。

 医療抜本改革の議論を進めてゆく上でのキーワードは、これからわが国が迎えようとしている「超少子高齢社会」です。わが国の少子高齢化は急速に進んでいます。今年1月に、国立社会保障・人口問題研究所が発表した将来人口の推計では、年少人口(0才?14才)は平成12年現在1851万人ですが、平成62年(2050年)には1084万人にまで減少する、その一方、老齢人口(65才以上)の割合は、平成12年、17.4%、実数で2200万人ですが、62年(2050年)には、老齢人口の割合は、実に35.7%、3586万人、2.8人に一人は高齢者という時代を迎えることとなるというのです。そして、その結果、わが国の生産年齢(15才?65才)は、平成12年の8638万人から、平成62年(2050年)には、4868万人に縮小してしまうと推計されています(急速に進む少子化対策は、もう一つのわが国の最大の政治課題です。)。

 戦後半世紀、安い費用で、良質な医療を国民に提供してきた国民皆保険体制をそのような超少子高齢社会においても維持して行くことができるのか、医療、医学の進歩によって国民医療費は今後も増高してゆくと考えられる一方、生産人口の減少によってこのままでは保険料収入もまた縮小して行くと見込まれる。医療抜本改革のキーワードは、まさに「超少子高齢化社会」であることが痛感されます。

 そこで、上述した5つのテーマのうち、今後、議論の中心となってゆくのは「新高齢者医療制度」の創設であると考えられます。高齢者医療制度としては、現在、老人保健制度がありますが、これに替わる新たな高齢者を対象とした医療制度を作る、というものです。新たな制度については、既に、厚生労働省の有識者会議等を中心として議論が進められていますが、概ね、次のような4つの提案がなされています。

 1) 独立保険方式
   現在の医療保険は、被用者健康保険、国民健康保険で構成さ  
   れているが、これらの制度を一元化し、一本の高齢者医療制度 
   とする。

 2) 突き抜け方式
   これまでの被用者健康保険、国民健康保険の枠組みをそのままとし、高齢者につい
   ても現役時代に属していたそれぞれの保険制度の対象とする。

 3) 年齢リスク構造調整方式
   2)と同じ突き抜け方式とするが、各保険制度の年齢構成により、高齢者の比率の高
   い保険者に対し、比率の低い保険者から財政支援(調整)を行う。

 4) 一本化方式
   被用者保険、国民健康保険の制度を一本化(一元化)し、若年世代、高齢世代を一緒
   にした一つの医療保険制度とする。

 以上の考え方の他にこれらの派生的なものがありますが、概ね、4つの案があると考えてよいでしょう。これらの案をベースとして、ワーキンググループでは、どのような案が最も国民の理解を得、また財政面からみて実現性があるか、検討を続けています。9月4日のワーキンググループでは、これら各案の財政影響等について厚生労働省から説明がありました。

 ワーキンググループでは、新制度案は、(1)新しい高齢者医療制度は、福祉制度ではなく、社会保険制度とする、(2) 対象は75才以上とする、ことを前提として議論しています。したがって、財源は、保険料、窓口での患者負担、そして公費(税)となります。このうち、保険料については高齢者の負担を求めることとなりますと、年金からの徴収となり、保険料率には限度があります。そこで、公費負担への依存が高くならざるを得なくなるわけですが、では、それを賄うための財源をどうするのか、また、何らかの形での若年世代の支援を行うべき等の議論がされています。

 こうした制度の仕組みを巡っての議論に加え、基本的な考え方についてもなお議論の余地があるように思います。例えば、新しい高齢者医療制度は、当然、現在の老人保健制度に替わって創設することとなりますが、では、新しい制度は現行老人保健制度とどう違うのか、という点です。現在の老人保健制度は、被用者保険の加入者だった高齢者も含めて国保で運営されており、夫々の保険者の拠出金と公費とで成り立っています。最近、この拠出金が、保険者によっては保険料収入の4割にも達し、保険者の財政を圧迫していることが問題となっています。現行の老健制度では独自の保険料を持たないため、拠出金に頼らざるを得ないわけですが、新しい制度では、保険料を設けることで、その点は改革されることとなります。

 また、高齢者だけを若年世代から分離して制度を作るという考え方が社会理念や保険制度の原理として妥当か、という指摘もあります。さらには、独立保険方式では、被用者保険と国民健康保険の一元化を行うこととしていますが、それなら保険制度全体の一元化を進めるべきではないか、という基本論もあります。しかし、被用者健康保険と国民健康保険の一元化は医療保険制度最大の課題ですが、それぞれの制度の歴史的な事情等もあって、これまで議論はほとんど進んできませんでした。しかし、国保だけでなく、被用者健康保険においても財政的に破綻に瀕している保険者が増加している現状から、保険者の統合・再編は医療抜本改革の課題の一つであり、保険者等の強化に関するワーキングクループで議論が続けられています。

 一方、診療報酬体系の見直しワーキンググループでは、現在の医科、歯科、調剤の保険報酬体系のあり方についての議論が進められています。論点としては、出来高払いと包括点数制、技術の適正な評価、ホスピタル・フィーのあり方、病・診の機能分担のあり方、そして特定療養費制度、混合診療等が上げられます。過日のワーキンググループのヒヤリングにおいて、日本医師会の代表は、診療報酬体系のあり方に関する提案として、医療機関を特定系統と一般系統の二つにわけること、特定系統は、国立病院、大学病院およびこれらに準ずる病院とし、政策医療を担当させる、これらの医療機関の診療報酬は包括性を原則とする、また、一般系統はそれ以外の医療機関とし、一般診療を担当させ、診療報酬は出来高払いを原則とする、との提案をしています。

 これは医療機関の機能分担について診療報酬体系の視点から提案されているものですが、医療機関の機能、役割についての議論は、医療提供体制のあり方ワーキンググループの課題となっています。医療提供体制の議論では、病院と診療所の機能分担、特に、公的病院と民間病院の機能分担のあり方等が重要な課題となっています。社会保険病院のあり方に関するワーキンググループでも、公的病院としての社会保険病院の役割、今日的意義等についての議論が進められています。

 また、診療報酬体系の議論で注目されるのは、混合診療等の議論です。医療保険の対象範囲の見直しは、重要課題の一つですが、混合診療の議論は、医療保険の対象範囲に関する議論そのものであり、診療報酬体系に留まらない、医療保険制度そのものの意義に係わる大問題です。

 さらに平成12年度に発足した公的介護保険との関係、位置付け、高齢者医療と介護保険をどう整合させるのか、あるいは統合するのか、医療と介護の線引きはどうなるのか。その方向の如何によっては、新しい制度における保険料、公費負担のあり方も変わってくるのではないか、と考えます。

 ワーキンググループの議論に参加していますと、それぞれのテーマはいずれも相互に密接不可分のもので、けして個別の問題ではないということが実感されます。医療制度抜本改革に関する提言は、別個に報告書にまとめられるべき性格のものではなく、医療制度抜本改革の総合的施策としてまとめ上げることが必要ではないのでしょうか。

 これから年末に向かってさらに議論を深め、党としての医療制度抜本改革の政策案がまとめられて行くこととなります。私も国会議員生活も2年目に入りました。超少子高齢社会において国民皆保険体制を守って行くためにどうような制度が確立されるべきか、国民のためにどのような医療制度改革を行うべきか、積極的に議論に参かしてまいりたいと思います。