藤井基之の国会レポート2003(その4)

強い雨と風の日と、晴天の日とが交互に続き、桜ももう終わりかと心配していましたが、国会議事堂周辺の桜は、まだ余韻を残しています。今年の桜は、気のせいか少し長持ちしているように思います。

 地方統一選挙たけなわ、党本部から選挙応援の指示が矢継ぎ早に出され、大変です。桜と選挙で持ちきりの日本に対し、イラク戦争は、バクダッドの制圧、フセイン政権の事実上の崩壊と、大詰の段階に来ているようです。バクダッドでは、略奪が横行するなど無警察状態となっているとの報道もあり、戦争が終結し、平安の日常に戻ることを祈るばかりです。

 さて、前回報告から1ヵ月、この間にいくつかの重要な動きがありました。第一に、「医療制度改革の基本方針」、第二に、「規制改革推進3ヵ年計画」の再改定が、それぞれ閣議決定されました。

 まず3月28日、政府は、「医療保険制度体系及び診療報酬体系に関する基本方針」を閣議決定し、発表しました。4月から、健保本人の患者負担3割への引き上げ、外来薬剤一部負担の廃止等の改正が行われましたが、これらとともに健保法の附則では、今後、具体的な検討事項を上げて、さらに本格的な医療制度抜本改革を進めることを規定しています。

 特に、附則2条第2項では、1) 保険者の統合及び再編を含む医療保険制度の体系のあり方、2) 診療報酬体系の見直し、そして3) 新しい高齢者医療制度の創設の3項目について、平成14年度中にこれらの基本方針を定めること、と規定しており、今回の閣議決定となったわけです。

 さて、基本方針では、まず医療保険制度体系の項で、保険者の統合,再編の問題を取り上げています。内容を要約してみますと、

 1) 市町村国保については、市町村の合併や事業の合同化等によって保険運営
   の広域化を図る。また、保険者の統合・再編を計画的に進め、広域連合等の
   活用により、都道府県単位の保険運営を目指す。
 2) 政管健保については、その財政運営を都道府県を単位としたものとする。
 3) 健保組合については、小規模・財政逼迫組合の再編統合を進め、都道府県
   単位の地域健保型組合の設立を認める。
 4) 健全な運営をしている健保組合、共済組合については、その自立性を尊重する。

 現在の医療保険制度は、地域保険ともよばれる国民健康保険と、サラリーマンを対象とする被用者保険とに分かれ、さらに国保は市町村国保と、同じ自営業で構成する組合国保に、また被用者保険は、政府管掌健康保険、組合管掌健康保険、公務員の共済組合,船員保険等の制度に分かれています。保険者の統合・再編とは、このように様々に分かれている医療保険制度を統合し、将来は、単一の医療保険制度とすることを目指す、という議論であるということができます。

 国民健康保険は、市町村国保が主体ですが、地域によっては人口が少なく、あるいは高齢化が進んでいるところもあって財政的に厳しいところが多いわけです。そこで、基本方針では、「市町村合併特例法」に基づく市町村の合併を進める中で、保険者の広域化を進めていく、という考え方を示しています。

 また、医療保険財政ではいつも政管健保財政の赤字が問題となってきました。政管健保は国自身が保険者として、組合員とその家族合わせて約3700万人を抱えており、社会保険庁が運営してきたわけですが、その財政は国家予算に直結しています。それだけに、その運営の在り方がいつも問題となってきました。

 そこで、基本方針では、これを地域の医療事情に応じた医療サービスを保証するようと都道府県単位での運営を目指す、としていますが、自民党のワーキンググループの意見では、政管健保の財政改革のためには、社会保険病院や地域の社会保険センターのあり方を見直しすべきという声も出ています。

 前述したように、保険者の改革は、5000もある保険者を統合し、一つの医療保険制度とすることが、究極の目標であるわけですが、それぞれの保険制度には、それぞれの歴史と実績があり、それを一概に否定することもできません。さらに厳しい議論が続くものと思われます。

 次ぎに、「新しい高齢者医療制度の創設」です。基本方針では、新たな高齢者医療制度として、次のような基本骨格の制度を検討することを提案しています。

 1) 高齢者を65才以上74才の前期高齢者と75才以上の後期高齢者とに区分し、
   後期高齢者について,社会保険方式による新たな制度を創設する。
 2) 新たな制度の財源は、後期高齢者の保険料、国保及び被用者保険からの
   支援及び公費(税)で賄う。
 3) なお、国保及被用者保険からの支援は、別建の社会連帯的な保険料を新設
   する。
 4) 前期高齢者については、従来の国保、被用者保険に加入する。
 ただし,国保、被用者保険それぞれ、加入者に占める高齢者の比率が異なるので(一般的に、国保の方が高齢者の構成割合が高く、そのため医療費も高い)、両制度間で財政調整を行う。

 新しい高齢者医療制度をどのような制度とするか、これまでの厚生労働省の試案、自民党のワーキンググループの案では、1) 高齢者については、国保、被用者保険の加入者を統合した独立の新しい制度とする、2) 高齢者についても、国保、被用者保険に区分し、両制度間で財政調整を行う(いわゆる突き抜け方式)、の2つの案が出されて来ました。

 今回の政府の基本方針では、後期高齢者については、国保、被用者保険を一本化した独立の新しい制度を、前期高齢者については、突き抜け方式とするという、2つの案を折衷したかたちのものとなりました。

 基本方針では、まだ基本骨格しか示されておらず、具体的にどのような制度となるのかはこれからの議論です。例えば、新制度の主要財源の一つ、公費については、90%公費負担とすべきという意見もありますが、余り公費比率が高いと、「社会保険」とは言えず「福祉制度」となってしまうという意見もあります。

 基本方針では、「公費を重点化する」としかの説明していませんし、また、公費負担を引き上げる場合、その財源をどのように確保するのか触れていません。さらには新制度への現役層からの支援について、別建の保険料とするとしていますが、その仕組みの詳細もわかりません。

 患者の医療機関での患者負担は、現在の老人保健制度では1割ですが、新制度ではどうなるのか、特に、前期高齢者はこれまでの国保、被用者保険に加入するということになりますと、現行のままでは70才?74才は3割負担となります。そこで、では74才と75才はどう違うのかという意見も出てきます。新高齢者医療制度も具体的な案となるには時間を要するでしょう。

 診療報酬体系の見直しについては、次ぎのような基本的な方向が示されています。

 1) 医療技術の適正な評価
  ・出来高払いを基本とし、技術力、難易度、時間等を踏まえた評価を進める。
  ・栄養、生活指導、重症化予防等の評価を進める。
  ・新規技術の適正な導入を図ることができるよう、医療技術の再評価を進める。
 2) 医療機関等のコスト、機能の適切な評価
  ・急性期入院医療について、出来高払いとの適切なバランスのもとに包括評価の
   検討を進める。
  ・慢性期入院医療については、包括化を進めると共に、介護保険との役割分担
   を明確化する。
  ・外来医療について、かかりつけ医、かかりつけ歯科医、かかりつけ薬剤師の
   機能等を重視した見直しを進める。

 医療制度改革の議論は、健保本人の3割負担や薬剤一部負担の廃止等で終わったわけではなく、これから、政府の基本方針を踏まえて本格的議論に入って行きます。厳しい議論が続きますが、「国民皆保険体制の堅持」と。「国民医療の向上」という明確な目標を基本に据えて、制度のあり方を考えて行きたいと思います。

 次に、規制緩和推進3ヵ年計画の再改定です。

 3月28日、総合規制改革推進会議の昨年12月の第二次答申を踏まえて、政府は、「規制改革推進3ヵ年計画(再改定)」を閣議決定しました。現在の規制改革推進3ヵ年計画は、平成13年3月に閣議決定されたもので、今回の見直しは、昨年3月の改定に続いて、再改定されたものです。

 再改定版3ヵ年計画ではこれまで度々取り上げられてきた一般用医薬品の販売規制の緩和について、平成14年12月の第二次答申の次の内容がそのまま記載されています。

 「医薬品については、平成11年3月31日に行った15製品群の医薬部外品への移行に伴い、コンビニエンスストアなどの一般小売店において、栄養ドリンク剤などの販売が可能となった。今後とも、一定の基準に合致し、かつ保険衛生条の比較的危険が少ない等の専門家の評価を受けた医薬品については、一般小売店において販売できるよう、平成14年度中に専門家による検討を開始し、平成15年度を目途に結論を得る。」

 その一方、ご承知のように総合規制改革会議は、本年2月17日、「規制改革推進のためのアクションプラン」を公表、その中で、今後推進すべき重点検討事項として医療、福祉等7分野12項目を取り上げ、「株式会社による医療機関経営」などとともに、一般用医薬品の販売規制の緩和も取り上げています。そして、本年6月までに、「重点検討事項に関する答申」として取りまとめ、総合会議のあらゆる権限を駆使して、2年以内に実現するよう求めて行くとしています。
 
 さて、私は、3月26日厚生労働委員会において30分、3月31日決算委員会において50分、質問の機会を得ました。その決算委員会の質問において、私は、この一般用医薬品の規制緩和問題と,株式会社による医療機関経営について取り上げました。

まず、株式会社による医療機関経営について、会計検査院が平成14年度の検査報告に(株)NTTの経営する病院の経営実態についての報告が出ていること取り上げ、その中で、NTT病院が経営的に赤字傾向にあること、そして、不採算の診療科を廃止した事例があり、また、不採算病院の廃止も含めた見直しが検討されているという事実を指摘し、慎重な議論を求めました。
 
 一般用医薬品については、平成11年に、医薬品のうち、作用が比較的緩和なものの一部を医薬部外品に移行するという措置が取られましたが、今回、厚生労働省は、規制改革推進3カ年計画により、3月、専門家会議を再び立ち上げ、再検討を開始しました。そして、その動きとは別に、上述のように、総合規制改革会議は、最重要事項として一般用医薬品の自由販売を取り上げることを決めました。そこで、今回の一連の動きに対し、私は、次のような趣旨の質問をいたしました。

 第一に、医薬品の新医薬部外品への移行に際しては、当時の厚生省が設置した専門家会議が全ての一般用医薬品を評価、検討して行ったものであり、この問題は措置が済んでいるのではないか。

 第二に、昨年、健康食品による健康被害が多発した。食品でさえ、こうした健康被害が起こり得る。まして本質的に人体にとって異物である医薬品については、その安全性の確保は最大の課題である。販売規制制度があるのは当然ではないか。

 第3に、医薬品の販売を自由にした場合、不良品や副作用問題等で医薬品を回収する場合のトレーサビリティをどのように確保するのか。

 第4に、医薬品の販売は、販売店の数が増えたからと言って、患者が増え、消費が増えるるわけではない。医薬品は、時には消費者から求められても、売らないという自制も必要な商品である。規制改革が、市場競争による経済の活性化にあるとしたら、医薬品は全くなじまないものであることを認識する必要がる。

 これに対し、内閣府からの回答は、医薬品の本質を理解しない、満足すべきものではありませんでした。しかし、厚生労働大臣は、「薬等は、直接健康に影響を与えるものあり、、守るべきところはしっかりと守って行くという決意でやって行く」と確約されました。

 現行の薬事法の医薬品の販売制度は、副作用問題や不良医薬品等の経験を踏まえ、又,いつでもどこでも医薬品を容易に入手できるという国民の便宜性に十分配慮して、制度が作られており、絶対に守られなければなりません。これは、長年、薬事行政に携わってきた私の信念でもあります。

 決算委員会の質問では、薬学6年制問題も取り上げました。厚生労働省、文部科学省に、これまでの審議の経過について質問いたしましたが、特に、文部科学省の河村副大臣に、文部科学省の検討状況、今後の予定等について質問しました。

河村副大臣からは、「薬学教育をトータルとして6年にしようという方向付けは、この(文部科学省の設けた「薬学教育改善・充実に関する調査研究協力者会議」)の議論で大体できた、共通認識になっている。」「教育制度をどういうふうに設計するかは、もうちょっと議論していただくとことになる。」、「協力者会議では、1年を目途にとりまとめていただくことになっている。夏までには中間報告もいただくというふうになっている。」「大学教育のことにもかかわる問題であり、法律(学校教育法)改正ということになると、中教審の意見を聞いた上で、来年の国会には法案が提出できるように努力をしていきたい。」と、丁寧に現在の状況、今後の予定について回答をいただきました。

 薬学教育6年制問題もいよいよ具体化に向かって進み始めたと強く感じました。

 その他、決算委員会では、1) 地方社会事務局への薬学系専門家の配置の必要性について、2)薬学部、薬科大学の新増設の計画が相次いでいることについて等の質問をしました。

 また、3月26日の予算委員会では30分の質問時間でしたが、1) 健保本人の患者負担の 3割への引き上げと薬剤一部負担の廃止による患者負担の低減について、2)老人保健患者負担の月額上限制撤廃と高額療養費の償還制への移行による受診抑制、高額療養費の請求手続きの簡素化の必要性、3) )長期処方の患者の服薬コンプライアンス等の確保等について、取上げました。服薬コンプライアンスに関しては、日本薬剤師会が平成12年度に実施した、医薬品の飲み残し等に関する調査データを引用させていただきました。

 イラク戦争終結の後は、戦後復興をいかにすみやかに進めるか、日本が何処まで貢献できるかが国会の議論となって行くでしょう。また、その後の我が国の最大の関心事は北朝鮮問題です。

そして、厚生労働委員会としては、何といってもSARSに対する対策です。問題山積です。
           
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