藤井基之の国会レポート2004(その2)

 立春も過ぎ、梅の香の漂う頃となりました。しかし、「立春の 雪の深さよ 手鞠歌 」(石橋秀野)と俳句にあるように、まだまだ冬の真只中にある地域の皆様にとっては、春はまだ先というのが実感であろうと思います。
 イラクに先遣隊に続いていよいよ自衛隊本隊も出発して行きました。見送る家族の方々の涙を政治家は忘れてはいけない、と改めて思います。2月9日(月)、参議院の「イラク人道復興支援活動等及び武力攻撃事態等への対処に関する特別委員会」で自衛隊のイラクへの派遣について審議が行なわれ、参議院でも承認されました。サマーワでは、自衛隊は歓迎され、多いに期待されているとのこと、無事に任務を果たされ、元気で帰還されることを信じています。と同時に、イラク復興支援のため、何ができるのか、さらに議論を深めることが必要であると強く感じます。

 さて、第159回通常国会は1月19日召集され、補正予算審議、そしてイラク派遣の国会承認の審議で、150日間の論戦の幕を明けました。今国会もまた、私は厚生労働委員会、決算委員会、政治倫理の確立及び選挙制度に関する特別委員会、そして、国民生活・経済に関する調査会委員を命じられています。特に、厚生労働委員会では、理事の指名を受けていますが、厚生労働委員会は、今国会では、年金制度改革という大仕事を担っています。まだ厚生労働委員会は開かれていませんが、与野党の理事の協議の場である理事懇談会に出席する度に、責任の重さを実感しています。
 
<薬学6年制に関する中教審答申>

 2月13日(金)、中央教育審議会の、薬学教育6年制についての答申の審議が行なわれ、同18日答申が出されました。薬学教育の修業年限については、次のような内容となっています。

 「近年の医療技術の高度化、医薬分業の進展等に伴う医薬品の安全使用や薬害の防止といった社会的要請に応えるため、薬剤師の養成のための薬学教育は、教養教育や医療薬学を中心とした専門教育及び実務実習の充実を図るとともに、これらを有機的に組み合せた教育課程を編成して効果的な教育を実施しうるようにする必要がある。また、現在、厚生労働省において行われている薬剤師受験資格の見直しの検討において、当該受験資格を得るための教育は6年間の学部教育を基本とする旨の提言が行われている。(中略) 以上を踏まえ、今後、薬剤師の養成を目的とする薬学教育については、学部段階の修業年限を4年から6年に延長することが適当である。」「他方、薬学教育においては、薬剤師の養成のみならず、薬学に関する研究、製薬企業における研究・開発・医療情報提供、衛生行政など多様な分野に進む人材を育成している。(中略) このため、薬学系の基礎教育を中心とした教育を行う現行の修業年限4年の学部・学科を存置することを合わせて認めることが適当である。」

 そして、薬学教育6年制と薬剤師国家試験受験資格との関係について、次のような提言がなされています。

「薬剤師国家試験受験資格については、厚生労働省において、6年制学部・学科を卒業した者に認めることを基本とすることで検討が進められているが、 4年制学部・学科を卒業し、薬学関係の修士課程を修了した者が薬剤師を目指す場合には、実務実習を含む医療薬学に関する履修などの一定の条件の下で、受験資格を付与するべきであると本審議会は考えている。」

 中教審は、医療人としての薬剤師の養成だけでなく、薬学における創薬研究者の養成を重視し、その分野の薬学教育課程の必要性を提言しているわけですが、同時に、その課程を選択した学生に対しても薬剤師への道を開くことを提言しているわけです。薬剤師国家試験の受験資格については、これを所管する厚労省において、学校教育法の改正と併行して薬剤師法の受験資格条項の改正の準備を進めていますが、このような中教審の考え方について、厚労省がどのような考え方で薬剤師法を改正するかについては、まだ明らかになっていません。

 いずれにしても昭和40年代以降、長年の懸案となってきた薬学教育6年制が、いよいよ学校教育法の改正という具体的な手続きに入って行くこととなります。この2004年という年は,日本の薬学教育の大きな節目の年となりそうです。

<年金制度改革>

 さて,今国会の最重要事項の一つである、年金制度改革を巡っては党内で精力的な審議が続けられてきました。また、与党年金制度改革協議会が設置され、与党間の政策調整が進められてきました。

 年金制度については、将来人口推計、平均余命、出生率等に基づいて5年ごとに保険料率、給付等の見直しを行うこととなっていますが、今回の改革は、それに留まらない大きな改革案となっています。

昨年の秋、厚生労働省が社会保障審議会の答申を受けて、同省の年金制度改革案を公表しました。自民党では、年金制度調査会と厚生労働部会が中心となって議論を続けて来ましたが、この厚労省の改革案を受けて、本格的議論に入り、併行して開かれて来た与党年金制度改革協議会に意見を申し入れてきました。2月4日、与党協の最終合意がなり、これに基づいて、厚生労働省が、国民年金法、厚生年金法等の改正案をまとめ、2月10日閣議決定され、国会に上程されました。

 これから国会で改革案を巡って議論が始まるわけですが、マスコミ等の報道は、改革案に対し厳しい論調が目立ちます。今回の改革は、あくまで、現行制度の基本的体系の範囲での改革であり、年金制度の仕組みを大巾に変えてしまうものではありません。しかし、国民皆保険体制を守って行くためには、今、改革の歩を進めければならない、との決意で、党内議論は進められて来ました。自民党内でどのような議論がなされてきたのか、主な事項についてご紹介してみたいと思います。

(1) 保険料と給付のあり方

 年金の給付水準は毎年の賃金の動向にスライドすることを原則としています。また、高齢化が進み,給付対象者の数も増加し続けており、当然、年金給付額は増加しています。現行の年金制度は、現役世代が高齢世代を支える「世代間扶養」を原則としていますが、人口問題研究所の将来人口推計によれば、年金受給世代となる65才以上人口比率は、2001年の18%から2020年には27.8%、2050年には35.7%と上昇して行くと推計されています。したがって、今の制度をそのまま将来も続けて行った場合、現役層の保険料負担は上がって行き、やがてその負担能力を超えた水準にまで上がってしまうと予測されています。

 そこで、厚生労働省の改革案では、「保険料水準固定方式とマクロ経済スライドによる給付の自働調整」という考え方を提案しています。それは、まず、保険料が国民負担能力を超えることのないよう、将来的な保険料の上限を決めておき、その上限まで、経済や賃金物価等の動向を見ながら、順次、保険料を引上げて行く。そして、その収入の範囲内に納まるよう給付の水準を、賃金動向を見ながら調整して行く、というものです。ただし、その給付の水準は、現役世代の平均的収入の50%を上回るものとすることを前提とすることとし、保険料の上限はこの50%という目標を達成することのできる範囲で設定する、こととしています。

 そこで、試算の結果,決定された保険料の上限案は、厚生年金で18.30%、また国民年金については、厚生年金に見合う水準として保険料の上限を16,900円とすることとなりました。この上限に向けて、厚生年金では現在の保険料率13.58%を、平成16年度から毎年0.354%ずつ引上げ、平成29年以
降18.30%で固定する。また国民年金については、現在の13,300円を、平成17年度から毎年月額で280円ずつ引上げて行き、平成29年度以降、16,900 円で固定することとなりました。これにより、厚生労働省は、現時点で予測される今後の物価、賃金等の動向を下にした試算では、少なくとも平成35年時点で厚生年金の給付額は、現役の平均収入の50.2%を維持できるとしています。

(2) 国庫負担と年金積立金

次に、保険料を引上げて行くのに際し、財政均衡を維持し、また国民の負担を極力軽減して行くために、国の責任として国庫負担の割合を引き上げるべ きとの考え方から、現在、基礎年金の財源の3分の1となっている国庫負担の割合を、順次引上げて行き、平成21年度までに2分の1まで引上げて行くこととされました。もし、国庫負担を2分の1に引上げなかった場合、現在の給付水準を維持するためには、将来、厚生年金の保険料率は26.0%に、また、国民年金では、28,900円まで引上げる必要があると、厚生労働省は試算しています。

 この国庫負担の引き上げの審議で問題となったのは、財源の問題でした。国庫負担の財源は、当然税収から賄われるわけですが、厳しい国家予算の中で、財源は確保できるのか、消費税の引上げについて検討すべきではないか、との意見が強く出されました。しかし、小泉内閣は、消費税の引上げは考えていないとの基本方針を固めており、この問題は税制改革の課題とし、別途、税調で議論することとされました。

また、今回の保険料固定方式による年金財政均衡期間を概ね100年程度とし、少なくとも5年毎に年金財政の検証を行なって行くこととしています。そして、現在、150兆円に達する年金積立金(年間の給付総額約40兆円の約4?5年分に当る)がありますが、厚生労働省は、おおよそ100年後で1年分程度の積立金を保有することを目途に、積立金を年金財源として使用し、財政均衡を図って行く、という考え方を提案しています。

この提案に対し、年金積立金としてどれほどの額を保有すべきか、議論がありました。ドイツでは、積立金は保有されておらず、毎年、年金財源についての厳しい議論が続いているということです。

(3) 女性と年金

 女性と年金問題についてもいろいろな議論が行なわれました。特に、厚生年金の第3号被保険者、特に専業主婦の厚生年金の受給権、及び主婦等のパートの方々の受給権についての議論がありました。

 基礎年金の上乗せ部分である厚生年金については、現行制度では夫が受給の権利を持っており、夫が亡くなった場合、遺族老齢年金の形で主婦はその4分の3を受け取る制度となっています。厚生労働省案では、これを、専業主婦の家事労働や育児等の家事労働を認め、厚生年金の受給権を夫婦2分1ずつに分割する、という提案となっていました。この案を支持する声も沢山ありましたが、結局、改革案では、離婚した場合、もしくは配偶者の失踪してしまった等の場合、2分の1の受給権を認めることに落ち着きました。

 実は、この問題は、現在の年金制度の根幹に関わる問題です。すなわち、現行の厚生年金制度は、世帯を単位とすることを基本的な考え方として構築されてきました。つまり、世帯主である第2号被保険者を給付対象者としています。

 したがって、現行制度では、世帯主であるご主人が亡くなった場合、奥様は遺族老齢年金として4分の3の給付を受けることになつています。また、現行制度では、収入のない20才以上の学生に対しても保険料の納付を義づけていますが、結局、その保険料も、事実上、学生の扶養者である親が支払うことに他なりません。第1号被保険者の収入によって、妻等被扶養者の年金保険料は賄われているわけであり、「世帯をユニットとする」ことが基本となっているといえましょう。夫婦間での受給権の分割は、この原則を個人をユニットとする体系に変えて行くという考え方でもあり、もっと議論が必要ではないかということになったわけです。

 また、パート勤務者については、厚生労働省の案は、週20時間以上勤務している場合は、厚生年金を適用するとの考え方でした。しかし、厚生年金では保険料の半分を企業が負担することになっており、現在のような経済状況でパート勤務者にまでこれを広げた場合、パート勤務者の多い中小企業にとって経済的負担が大きく、パートの雇用までも減退させてしまうのではないかとの懸念も多く、今後5年を目途に再検討することとされました。

 今日、国民の勤務形態は、パート勤務に限らず、特定企業で終身働くというより、派遣社員、契約社員、フリーター等の勤務形態が増え、大変多様化、流動化しています。その多くが、厚生年金は適用されず、国民年金が適用されますが、多様なライフスタイルにおいても安心できる年金制度を作ることが大切だという意見が出され、今後の課題とされました。

(4) 在職老齢年金

 年金の受給権が出来た後も、職を持ち、収入がある高齢者は少なくありません。現行では、在職老齢年金制度があり、一定の減額はありますが、在職で収入のある高齢者に対しても年金は支払われています。

 現在の仕組みは、サラリーマンが定年を過ぎても正社員として会社勤めをしていると、厚生年金を減らされ、保険料も徴収されています。年金の減額に関する条件は、60歳代の前半と後半で異なります。60歳代前半の場合、給与がどんなに少なくても年金が最低で2割は減額され、高給だと年金が完全に支給停止になることもあります。

 これに対し、60歳代後半は条件が緩く、老齢厚生年金の月額と、会社から受け取る月収の合計額が37万円以下であれば、年金は減額されません。

 これに対し、改革案は、在職高齢者については、60才台前半に対する、現在の2割の減額、支給停止措置を廃止する、ただし、保険料は徴収する。また、70才以上の受給者については、余命期間等勘案し、保険料負担を求めることは適当ではない、ただし、給付額については減額調整する、ことで決着しました。

 以上が、今回の年金制度改革の主要なポイントですが、このような改革を行なうに当り、自民党内では、年金財源の適正な管理,運用の観点から、国民の間でも関心の高い諸事項について審議が行なわれました。これらの問題を放置したままで、国民の負担増ばかりを求めることはできない、国民の理解を求めることは困難であるとして、極めて厳しい議論が行なわれました。

? 年金積立金運用のあり方

 前述の通り、年金積立金は現在150兆円という巨額に達していますが、厚生労働省がこの年金積立金をが自主運用することが認められています。年金資金は、税金とは違い、年金という目的のために国民から預っているお金ですから、政府が勝手に使ってよいという性格のものではありません。

 そこで、年金資金の運用に際しては、まず、厚生労働大臣が、年金財源の安全な運用という観点から、「分散投資」を基本として、資産構成割合(ポートフォリオ)、つまり、国債、株式、外国債券等にどのような割合で投資するかを決め、その決定にしたがって、「年金資金運用基金」が、主に民間運用機関に委託して運用してきました。

 これまでに約35兆円の年金資金が、年金資金運用基金に寄託され、運用されてきましたが、ご承知のように,近年における株価の低迷から6兆円ほどの評価差損が出たことが批判を受けました。最近では,株価の上昇もあり、平成15年度上半期の総合収益額は、2超4452億円の黒字となっているとのことです が、国民から預かっている年金資金をもっと安全に運用管理すべきとの強い 指摘がなされました。

 そこで,今回の年金制度改革に併せ、これまでの年金資金運用基金を廃止し、新たに、「年金積立金管理運用独立行政法人」を創設し、金融、経済の専門家の意見を尊重した、運用管理体制を作ることとされました。

 この年金資金の運用を巡っては、安全を第一に、国債1本に絞るべきという意見も強くでましたが、結局、折角の資金を、よりリターンの大きな株式投資も含めて運用するというこれまでの基本方針を踏襲することとし、そのために運用管理組織の抜本的な見直しを行ない、分散投資によって運用して行くこととされました。

? 年金資金による福祉・保健事業等のあり方

 年金加入者への利益還元の観点から、これまで、医療、保健、福祉サービス等の施設の建設や運営に年金資金が投入されて来ました。地域には、年金資金によって作られた厚生年金病院や厚生年金会館、健康保養センター、老人ホーム、休暇センター、社会保険健康センター等,国民に馴染みの深い様々な施設が沢山あります。また、年金資金による住宅融資制度もあります。

 これら年金施設の中には、地域の中核的な施設となっているところも多いのですが、一方、利用度が低い等により採算の取れない施設も少なくないことが、これまでしばしば問題となってきました。特に、テレビ、新聞等で、グリーンピアと呼ばれる健康保養センターで、広大な施設を持ったまま、廃業に追い込まれる施設が続いていることが取り上げられました。

 年金財政を維持するために、保険料の引上げ、給付の引き下げが迫られている中で、年金資金をこうした施設に投入する意味があるのか、施設の赤字補填のために、年金財源が用いられることは許されないのではないか、平成12年、民間にできることは民間に任せるという政府の基本方針が閣議決定されているが、この基本方針にも反するものである、等の厳しい指摘が、党内議論でも強く出されました。

 このため、党年金制度調査会に、「年金資金運用・福祉施設改革推進ワーキンググループ」が設置され、廃止も含む福祉施設等の見直しについての検討がなされて来ました。グリーンピア及び年金資金による住宅融資については、既に政府方針として、平成17年度までに廃止することが決まっていますが,その他の施設についても、「年金資金は、年金給付以外には用いない」という大原則のもとに、現在、今後の改革の方向について、ワーキンググループでの議論が続いています。

? 保険料の未納と国民理解

 今回の改革の重要な課題として、特に、国民年金の未納問題があります。厚生労働省によれば、国民年金の保険料の納付率は62.8%、つまり対象者の40%近くが、年金保険料を納めていないということです。その理由は、保険料を払っても、将来,年金はもらえないのではないか、という国民年金に対する信頼の低下、若年層の雇用形態や生活様式の多様化、そして、公的年金制度に対する理解の欠如等が挙げられています。

 このまま放置されれば、国民年金制度の崩壊に繋がりかねないとの危機感も大きく、いかにして、保険料の収納率を高めて行くかが、大きな課題となっているのです。

 その対策としては、厚労省は、保険料の納付督促の強化、徴収窓口の拡大(スーパーなどの利用)等の対策を講じているとしていますが、何よりも、特に若年層に対して、公的年金制度の意義を理解してもらうこと、また私的年金制度と比較しても、国庫が基礎年金の財源の半分を負担するという優遇された制度であること等、公的年金制度のメリットについて知ってもらうこと、そして、公的年金制度は、将来的にも安定したものであることをもっとアピールし、信頼を回復して行くことが大切であることが強調されました。

 また、実務的な対策として、保険料の収納状況から算出したポイント制(自分が、今までどれだけ保険料を払い、将来、どれだけの年金をもらえるか、という指標を点数で示すもの)の導入も検討されています。

 この未納問題を巡っては、「公的年金制度は、社会連帯である。保険料を支払わないということは、その社会連帯から外れるということであり、将来、年金という形での社会支援は得られないことになる」ということを、もっと 明確に理解させるべきだという、厳しい意見もありました。

 国会での年金制度改革の議論は、大変厳しいものとなりましょう。今回の 改革は、現行制度を基本とした改革であり、国民年金、厚生年金、共済年金等の各種制度の一元化等制度の体系全体を見直すという改革ではありません。

 しかし、年金制度を持続可能なものとするために今やれることは,やらなければならないのであり、与党としては改革を断行する、しかし、自民党として、より根底からの年金制度改革の議論の場を設けるべきではないかとの声が、多くの先生方から上がっていました。100年後の日本国民に、国民皆年金体制を残すために,国民的な議論を行なう時期にあるということでありましょう。

[haiku="椿よ高く  高き青空  仰ぐべし ( 荻原井泉水 )"/haiku]