藤井基之の国会レポート2004(その6)

 関東地方も梅雨真っ只中ですが、ここ数日、五月晴れのような良い天気が続いています。晴れたり、梅雨空となったり、変わり易い天気となっていますが、お元気でしょうか。
 さて、6月16日(水)、第159回通常国会は、150日の会期を終えて、閉会しました。この国会は、年金改革法案、有事7法案等重要法案の審議を巡り、波乱万丈の国会でした。また、薬剤師法、学校教育法の改正案も無事成立しました。
(年金改革)
 この通常国会はまさに「年金国会」となりました。6月5日(土)午前9時15分、年金改革法案は、参議院本会議で、賛成多数で可決、成立しました。
 今回の年金改革法案は、正式には「国民年金法等の一部を改正する法律案」といい、?国民年金法、?厚生年金法、?厚生年金制度及び農林漁業団体職員共済組合制度の統合を図るための農林漁業団体職員共済組合法等を廃止する等の法律、?確定給付企業年金法、?確定拠出年金法、?健康保険法等その他の関連法、と、年金関連法を総ざらいした改正案でした。厚生労働省から提出された年金改革法案参考資料は、1121ページにも及ぶ分厚い資料となっており、この資料を見ただけでも、大変な制度改革であることを感じます。
 6月3日(木)、参議院厚生労働委員会で賛成多数で年金改革法案を可決、翌日の4日(金)から5日(土)にかけて、徹夜国会となりました。日報でもご報告しましたが、4日夜から5日朝にかけては次のような状況でした。
午前0時 議員総会
0時10分 本会議
1時41分 国井厚生労働委員長解任決議案を否決、休憩
3時15分 議員総会
4時21分 再開、副議長が散会と宣言
4時33分 議長が「副議長が散会を宣言したが規則に照らし無効、仮議長を選出する」と発言、休憩
7時 議員総会
7時39分 再開、仮議長に竹山自民党参院会長を選出。倉田議長不信任案を否決
8時15分 倉田議長が復帰、川村事務総長の不信任案を否決
9時 2分 坂口厚生労働大臣の問責決議案を否決
9時30分 民主党、社民党が欠席する中、年金3法の採決が行われ、賛成多数で可決、成立
 この年金改革の審議で私が感じたのは、余りに野党が年金改革審議を、党利・党略、政治的に利用しようとし過ぎたのではないかということでした。
 年金改革は、全ての国民の老後をいかに安心なものとするか、という国民的課題であって、党の違い、イデオロギーの違いを超えて議論されるべきものであると思います。
 法案提出前の自民党内での議論は国会審議以上に厳しいものでした。「保険料を引き上げ、年金額を引き下げる」という、国民から決して歓迎されることのない年金改革を、参議院選挙直前の今何故やるのか、これでは選挙は戦えないという意見も、正直言って出ていました。しかし、「国民皆保険」を死守する、持続可能な制度とする、そのために必要な改革を進めることを、党員皆が了解しました。
 この年金改革案の審議を通じて、私は厚生労働委員会で4回、決算委員会も含めますと5回質問に立ちました。質問に当たっては、ともすれば、党略的、政略的な動きによって本質的な議論から外れがちな審議にあって、国民の目から見て分かりにくい点、疑問に感ずる点等について明らかにすること、政府の見解をただすことに努めました。
 年金改革で議論となった問題のうち、1点だけ触れておきたいと思います。それは、年金改革の一元化です。私も、厚生労働大臣に、「年金一元化」とは何をさしていうのかと質問しましたが、一元化は言うに易く、行うには、国民的議論を呼ぶ沢山の難題を孕んだ課題です。
 我が国の公的年金制度は、国民年金、厚生年金、共済年金制度からなっていますが、それらを一元化し、負担も給付も国民一律なものとすることは、公的年金制度の目指すところであることは間違いありません。しかし、これらの制度は、それぞれの歴史、それぞれの経緯を持って制度を成熟させてきました。制度の構成員も、年金保険料も、給付額も異なります。
 制度の一元化の最も大きな課題は、国民に一律の保険料を賦課するとすれば、国民の所得を正確に把握するための制度、いわゆる国民総背番号制度の創設が不可欠です。しかし、背番号制には国民の間に慎重論が根強くあります。各制度間の財政力も格差があります。
 一元化の議論は、医療保険制度にもあります。国保、健保、共済などの制度を一本化するというものです。しかし、平成14年の、健保の被保険者の自己負担を国保と同じ3割とするための健保法改正に絶対反対を唱えたのは、他ならぬ野党でした。自己負担の一本化でさえ、大変な議論がなされたのです。
 一元化の議論のない案は、抜本改革とはいえないと野党は主張しましたが、一元化で国民の合意を形成するためには、相当の時間と議論が必要であると考えなくてはなりません。それまでにやれることはやっておく、それが今回の改革です。そして、衆議院での審議では、自民、公明、民主の三党合意で、一元化については今回の改革後、改めて協議の場を設けることとなり、法案の一部改正が行われ、附則にその趣旨が明記されました。
 一部新聞は、国民の7割が年金改革法案に反対していると報道し、野党も質問でこれを引用しました。しかし、この法案を廃案にした場合、公的年金はさらに厳しい状況を招くことは明らかであり、それでは、政権政党としての責任は果たせません。総年金給付額は年間42兆円を超えています。少子化、高齢化は急速に進んでいます。改革は一刻を争う緊急課題なのです。
 私は、この国会では、実に沢山の勉強をさせていただきました。厚生労働委員会理事として、委員会の運営、党内調整、野党との折衝、行政との調整等、大変忙しい日々の連続でした。その合間をぬって、上述した年金改革に関する質問も含めて、10回の質問に立つことができました。また、年金改革案の本会議審議の過程では、厚生労働委員長解任決議案の反対討論で、初めて本会議場の演壇にも登りました(下掲の写真)。これらの経験は今後の私の政治活動の大きな糧となることと思います。

(薬剤師教育6年制)
 6月15日(火)の衆議院の本会議で、薬剤師法一部改正案が全会一致で承認され、成立しました。これで、先に成立した学校教育法改正と合わせて両輪が揃い、薬剤師教育6年制はいよいよ実現の運びとなりました。日本薬剤師会が、公に6年制を提唱してから40年近くの歳月を経ての夢の実現です。6年制は、私が政治を志した最大の課題の一つであり、感慨に耐えません。
 この国会は6月16日(水)までであり、その前日、まさに閉会ぎりぎりの成立、最後までハラハラ、ドキドキさせられました。言うまでもなく、年金改革審議の影響で国会審議が混乱し、委員会審議がなかなか進まなかった結果です。当初から、年金審議が衆議院で相当の時間を要するであろうことを予想し、薬剤師法改正案は参議院先議(衆議院より前に参議院で先行審議すること)の法案とされ、参議院では連休直後の5月14日(金)に可決されていました。
 一方、衆議院では、年金改革法案も5月11日には可決されましたので、その後の審議は順調に進むものと思っていました。しかし、参議院での年金改革審議のあおりを受けて、衆議院厚生労働委員会も止まってしまったのです。
 そんな産みの苦しみはありましたが、法案そのものは、両案とも衆参厚生労働委員会、文教科学委員会、文部科学委員会、本会議と全て全会一致で可決されました。薬剤に係る医療事故の防止など薬剤師職能に対する社会の期待の大きさを現していると思います。
 改正薬剤師法、改正学校教育法の実施は平成18年度の入学生からです。そして6年制薬剤師が社会に出てくるのは平成24年です。それまでの間に、やっておかなくてはならないことは沢山あります。
 6年制では、病院、薬局での6ヶ月以上の長期実習を求めることとなりますが、その実習受け入れ体制の整備、大学においては6年制カリキュラム、教育体制の整備、医療薬学専門教員の教員の確保等を急がなくてはなりません。
 そして、私が何よりも大切だと考えますのは、8年後、6年制薬剤師の第1号が生まれたとき、彼らが縦横にその6年制の成果を発揮できるよう、医療第一線におられる現役の薬剤師の皆様方に一層のご活躍いただき、環境を整えていただくことであります。
 今回の学校教育法、薬剤師法の改正内容の概要は、次の通りです。


薬学教育制度及び薬剤師国家試験制度の見直し

【背景及び必要性】
○ 医療技術の高度化、医薬分業の進展等に伴う医薬品の安全使用といった社会的要請に応え、医療の担い手として、質の高い薬剤師が求められている。

○ この社会的要請に応えるためには、大学の薬剤師養成のための薬学教育において、教養教育、医療薬学、実務実習を充実した教育課程の編成により、臨床に係る実践的な能力を培うことが必要。
○ そのためには、現行の4年間の大学における薬学教育では十分ではなく、6年間の教育が必要。

【制度見直しのポイント】

 学校教育法の改正(文部科学省)
 大学の薬学を履修する課程のうち、薬剤師の養成を目的として、臨床に係る実践的な能力を培うことを主たる目的とする課程については、その修業年限を6年とする。
(併せて、研究者の養成など多様な人材の養成を目的とする修業年限4年の課程も存置)
 薬剤師法の改正(厚生労働省)
 学校教育法の改正に伴い、修業年限6年の大学の薬学を履修する課程を修めて、卒業した者に薬剤師国家試験受験資格を与える。
 ただし、新制度へ円滑に移行するための経過的取り扱いとして、平成29年度まで(法施行後12年間)に薬学の4年制課程に入学し、その後、薬学の修士課程を修了した者が、一定の要件を満たす場合には、受験資格を付与する。
【制度導入期日(法施行日)】
○ 平成18年4月1日(改正学校教育法、改正薬剤師法とも)
 ※ 施行期日前に大学に在学し、薬学の課程を履修している者は、4年の課程の卒業により受験資格が付与される。


(独立行政法人医薬基盤研究所法案)
 それからもう一つ、今国会で「独立行政法人医薬基盤研究所法」が成立しました。私の政策課題の一つは、国民医療の向上に、そして世界の人々の医療に貢献することのできる優れた新薬、医療技術の研究開発の推進です。医薬研究基盤研究所は一般企業の手をつけにくい基盤研究の実施、支援がその役割です。
 かつて、この医薬基盤研究所構想の立ち上げ段階に参加した私にとって、この法案の成立もまた感慨深いものがあります。
7月、参議院選挙。平成13年の私の選挙から丸3年の月日が経ちました。私のこの通常国会後の仕事は、私と志を同じくする立候補者の応援、そして今回の年金改革の必要性、意義について国民の理解を深めて行くことです。

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