藤井基之の国会レポート2006(その12)

 今年も残り2週間余りとなりました。今年の紅葉は例年より少し遅かったようで、国会周辺の銀杏は今、見事な黄色に染まっています。7月から国会の合間を縫って、全国行脚の旅。11月の東京まで、日本列島を一巡りしました。日本は狭いといいますが、けしてそんなことはありません。日本は広い、と実感いたしました。各地の皆様に本当にお世話になりました。感謝申し上げます。
  9月に開会された臨時国会も、教育基本法の一部改正案と、防衛庁の省昇格法案を最後に可決成立させて、(会期は12月19日まで延長されましたが)、事実上閉会しました。この後は、来年度政府予算案の編成を残すのみです。

(決算委員会)
 この臨時国会では、厚生労働委員会では質問の出番がありませんでしたが、決算委員会でその機会が与えられました。国会では予算委員会がテレビ中継もされ、注目されがちですが、参議院では決算委員会重視を基本方針としていますので、NHKのテレビ放映もあります。
 質問時間は3人の自民党議員質問者の2番手で、50分間いただきました。テーマは3つに絞ってみました。第一に、会計検査院の平成17年度検査報告のうち、医療費について、第二に、医薬品研究開発等の推進について、第三に、結核対策のDOTSについてです。
 まず、会計検査院の「平成17年度決算報告」について、厚生労働省関係のうち、社会保険診療報酬の関係では、医療費の国の不当な負担が、4億992万円あったと指摘されています。そこで、指摘例をみますと、医療保険と介護保険制度の両者に係わる事例が大部分で、同じような指摘をされている医療機関の数が少なくありません。
 例えば、在宅医療料についての指摘例をみると、「介護保険の要介護被保険者等である患者に対して、在宅患者訪問看護・指導料または訪問看護歯科衛生指導料等を算定するなどしていた」とあります。また、調剤報酬の事例でも、要介護被保険者に対して在宅患者訪問薬剤管理指導料を算定したことが、不正請求とされています。いずれも、実際に、在宅患者訪問看護や在宅患者訪問薬剤管理指導業務などのサービスは行われているのですが、厚生労働省は、医療保険と介護保険の給付の調整について、
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施設や居宅で、要介護者に対して、計画的に行われる日常的な医療、健康管理は、介護報酬から支払われるべきものであり、配置医師や看護師の指導管理のもとに行われるべきものであること。
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したがって、同一の疾病又は傷害について、介護保険法の規定により給付を受けることができる場合については、医療保険からの給付は行わない。
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ただし、末期がんやその他、緊急に医療行為を行う必要がある時等は、本体医療機関に転送して行うべきであるが、やむを得ない場合にあっては、医療保険の適用を認める。
 ということで原則的に整理しています。したがって、今回の指摘となったわけです。しかし、どうも、多数の医療機関が同じ誤りを犯しているということは、医療保険と介護保険の区分が分かりにくいのではないか。診療報酬体系の分かりにくさが、結果として不正な請求となっているのではないか。これは、医療を受ける患者、あるいは要介護者、ケアマネージャーのサイドからみても、非常に分かりにくい制度となっているのではないか。もっと、診療報酬体系を分かり易いものとする努力が必要ではないか、と指摘しました。
 次に、国の医薬品の研究開発振興について、政府の基本方針、対策等について質問しました。最初に、科学技術基本計画、イノベーション25における医薬の位置づけ、医薬品開発振興に対する安倍総理のお考えをお聞きしました。安倍総理から、次のような趣旨の大変懇切なお答えをいただきました。

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人口減少局面でも、わが国が活力を維持し、成長を続けるためにはイノベーションによって生産性を上げ、競争力に富んだ国にしていかなければならない。
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政府のイノベーション25では、医薬は大変重要な位置を占めている。新しい医薬品の開発は、国民や世界の人類に対して大きな利益をもたらすと確信している。
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科学技術基本計画に基づいてライフサイエンス分野の推進戦略を推進しており、その中で、医薬品分野におけるイノベーションによって、治療、予防等ための画期的な新薬、新たな技術がもたらされることを期待している。産業分野においてもいろいろな可能性が出てくる。
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一番大切なことは、国民が元気で長生きできる、人生の質を高めていくことにつながっていくことであり、その実用化を目指し、国民への還元を図ってゆきたい。
以上のような安倍総理の答弁をいただいた後、高市科学技術担当大臣、柳沢厚生労働大臣に、次のような質問をしました。
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外国では優れた治療薬が上市されているが、わが国ではまだ承認されていないため使用できず、治療ができない、というのは問題。稀用医薬品など承認の迅速化を図るべき(ムコ多糖症の治療薬の治験等の見通し)。
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総合科学技術会議の中間報告で、医薬品総合機構の承認審査の迅速化・効率化の一環として、質の高い人員増が必要と提言があったが、その趣旨及び承認審査の迅速化に対する厚生労働大臣の決意。
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医薬分野の研究開発には臨床研究分野が最も大事。総合科学技術会議では、第3次5カ年計画の中で、臨床研究の推進を取り上げられているが、その目標、どのような工程表を用意しようとしているのか。
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臨床研究には、倫理的な制度の整備もご配慮いただきたい。
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新薬の開発研究には官民の相互協力、相互理解が不可欠。諸外国では、官民が参加した議論の場を設けていると聞いている。医薬品・医療産業と政府との対話の場を設置することを検討してはどうか。
 高市大臣からは、審査体制の拡充については、審査官の待遇の見直しなど制度面からの改革も含めて結論を得たい。また、臨床研究の充実については、ライフサイエンス分野別推進戦略において、この5年間に医療機関の臨床研究の実施体制の整備、治験環境の基盤の確立等、臨床研究環境の向上を計画的に目指してゆきたい、と回答がありました。
また、柳沢大臣からは、審査の迅速化を目指し、体制の強化を図ってゆくべく、12月末を一つのデッドラインとして、政府部内の調整を行って行きたい、との回答がありました。
 次に、この臨時国会で、感染症予防法の改正案が可決、承認されましたが、最近、再び増えつつあるという結核対策,DOTS((Directly Observed Treatment Short-course、家庭訪問等によって、患者と対面し服薬を確認する治療支援)について次のような質問をいたしました。
 平成17年から、厚生労働省は、「大都市における結核の治療率向上(DOTS)事業」を実施しているが、厚労省の実施状況調査によれば、院内DOTSは結核病床を有する医療機関の75.1%が実施している一方、外来DOTSは、30.8%の実施率に留まっている。医薬分業が進み、結核の外来の患者さんの院外処方せんも増加しており、薬局を活用することも検討する必要があるのではないか、例えば、大阪市は大阪府薬剤師会と委託契約して、薬局でのDOTSを開始したと聞いている、と、質問しました。柳沢大臣からは、大阪の例も参考として、対策を考えてゆきたいと答弁がありました。
 基金月報の昨年7月号によれば、結核予防法第34条の公費負担の外来患者の70%近くが、実は院外処方せんによって、薬局で投薬を受けています。DOTSは、薬局が大いに活躍することのできる場ではないでしょうか。
(平成17年人口動態調査)
 厚生労働省統計情報部から、平成17年のわが国の人口動態に関する調査結果が発表されました。既に報道されているように、平成17年の出生数は106万2530人となっており、平成16年の出生数111万721人に対し、48,191人、の減少となっています。また、特殊合計出生率(一人の女性が一生の間(14歳から49歳までの間)に生む子供の数)は、平成16年は1.29でしたが、1.26まで下がりました。秋篠宮家に男児出生もあって、つい最近、出生数が増えたと報じられましたが、一時的な現象でないことを期待したいものです。
 一方、死亡数の方は108万3796人となっています。出生数は106万2530人でしたから、差引き2万1266人の減少ということになります。 
死亡の原因についてみますと、第一位は、悪性新生物、第二位は心疾患、第三位は脳血管疾患、となっており、いわゆる三大疾患といわれてきた、がん、心臓疾患および脳血管疾患が、平成17年も上位を占めました。特にがんについては、32万5941人で、死亡者総数の30.1%を占めています。がん対策は医療における最大の課題です。
 男性と女性の死因を比較してみますと、がんによる死亡が、男性の33.6%に対して女性は25.9%、心疾患は男性14.4%に対して17.9%、脳血管障疾患が、男性10.9%に対し、女性13.9%となっています。また特に、女性では「老衰」による死亡が死因の第5位に挙がられており、女性の長寿化を反映しています。
 また、男性の死因の第4位は、不慮の事故で39、863人となっています。これに対し女性は、不慮の事故は15272人となっています。同様に、自殺は、男性で第6位、22、236人、女性では第8位で8317人となっており、男女の死因の特性が現れています。
 さて、来年は、亥年。どんな年となるのでしょう。「亥」という字は、「生命力が種子の中に閉ざされた様子」を表す表意文字だそうです。将来に向かって、素晴らしい「種子」を播く、そんなチャレンジの年にしたいものです。

[haiku="除夜の湯に 肌触れあへり 生くるべし(村越化石)"/haiku]