藤井基之の国会レポート2006(その4)
東京は桜も終わりました。今年は、花冷えで、結構長く桜を楽しめたようです。桜前線は北上し,東北では今見ごろとなって来ているようです。しかし、4月に入って、北海道では雪が降るなど、日本列島は南北に長いですね。プロ野球も開幕しましたが、WBC世界一を取ったあとだけに、世界一流の野球を見ているのだという気分がしていいものです。
さて、平成18年度予算も成立し、新年度に入って、国会はいよいよ法案審議に入りました。
これまでは予算委員会理事として大忙しでしたが、これからは、引き続き国会対策委員会副委員長として、また法令審議では、厚生労働委員会委員、憲法調査会委員、北朝鮮拉致問題特別委員会委員としての仕事が始まっています。
厚生労働委員会関連では、内閣からは次の法案が提出されています。今国会の会期は6月18日まで、あと2ヶ月程の審議日数しかありません。与野党対決となりそうな法案を抱えつつ、この期間内で厚生労働関係だけでもこれだけの法案を上げなければなりません。薬事法が参院先議となった理由がお分かりいただけると思います。
? 国の補助金等の整理及び合理化等に伴う児童手当法等の一部を改正する法律案
? 独立行政法人に係る改革を推進するための厚生労働省関係法律の整備に関する法律案
? 健康保険法等の一部を改正する法律案
? 良質な医療を提供する体制の確立を図るための医療法等の一部を改正する法律案
? 戦傷病者等の妻に対する特別給付金支給法及び戦没者等の妻に対する特別給付金支給法の一部を改正する法律案
? 職業能力開発促進法及び中小企業における労働力の確保及び良好な雇用の機会の創出のための雇用管理の改善の促進に関する法律の一部を改正する法律案(参院先議案件)
? 薬事法の一部を改正する法律案(参院先議案件)
? 雇用の分野における男女の均等な機会及び待遇の確保等に関する法律及び労働基準法の一部を改正する法律(参院先議案件)
? 感染症の予防及び感染症の患者に対する医療に関する法律等の一部を改正する法律案
? ねんきん事業機構法案
? 国民年金事業等の運営の改善のための国民年金法等の一部を改正する法律案
? 社会保障に関する日本国とカナダとの間の協定の実施に伴う厚生年金保険法等の特例等に関する法律案 (参院先議案件)
?
就学前の子どもに関する教育、保育等の総合的な提供の推進に関する法律案
〈文部科学省と共管、文部科学委員会で審議予定〉
ところで、3月23日、予算委員会で2度目の質問に立ちました。今回は一般質問。時間が35分程度でしたので、前回時間切れで積み残した薬物乱用問題を取り上げ、安部官房長官、内閣府、厚生労働省、文部科学省などに次のような趣旨の質問をしました。
1) 薬物乱用防止対策本部において、平成10年、「薬物乱用防止対策5ヵ年戦略」、平成15年に「薬物乱用防止対策新5ヵ年戦略」を策定し、対策を推進しているが、第一期の5ヵ年戦略をどのように評価され、また、新5ヵ年戦略においては、どのような点を重点施策として推進しておられるのか。 また、薬物乱用対策本部を所管する内閣府の体制強化が必要ではないか。薬物乱用対策を総合的に進めるための基本法的なものを検討する必要はないか。
2) 米国議会で、ブッシュ大統領が報告した国務省の「国際薬物規制戦略レポート」では、北朝鮮での薬物の製造、密輸に関し、なお、不法な活動が続いている疑いがある、とされている。また、中国において雲南省を中心に麻薬、覚せい剤問題が拡大しているという情報がある。
「平成17年の税関における密輸事犯の摘発状況等について」によれば、平成17年においては、MDMAの押収量は一昨年を下回ったが、1回当たり押収量は増加してきている、としている。税関のレポートでも、密輸の摘発事犯は、数字的には一昨年を下回ったものの、密輸手口はますます悪質化・巧妙化している、と報告している、不正薬物の密輸対策を強化するべきではないか。
3)
福井県で、15才の女子高校生が、暴力団員と覚せい剤を使用し、死亡したという事件が報じられた。警察庁がまとめた、「平成17年中の薬物・銃器情勢」によると、昨年は覚せい剤をインターネットを通じて密売する事例が増えているということだ。このようなインターネットを利用した事犯は今後増加して行くのではないか。インターネット時代にあっては、やはり子供達、若者たちに、薬物乱用の恐ろしさを教えることだと思う。
文部科学省の調査では、高校生男子では、覚せい剤等の乱用薬物を使用する ことについて、「他人に迷惑をかけていないので個人の自由である」という回答が1年生で10.7%、2年生で11.8%、3年生で13%を占めている。」 と報告されている。
児童生徒に対する乱用薬物の危険性の教育を学校薬剤師、麻薬取締官OB等を活用し、もっと効率的、有効な啓発運動が行われるよう、各省連携して、
啓発教育を体系的に実施すべきではないか。
以上の質問に対し、安部官房長官等からは薬物乱用対策は政府の重要課題であり、不正薬物の密輸監視体制の強化、青少年に対する啓発、指導の充実強化を期してゆきたい等の答弁がありました。
さて、参議院先議とされていた医薬品販売制度及び違法ドラッグ規制に係る薬事法一部改正案は、4月10日、本会議で提案理由説明・質疑が行われ、12日から厚生労働委員会で審議開始、13日、審議、14日、参考人質疑、18日(火)、最終審議を終えて、直ちに採決に入り、賛成多数で可決されました。13日(木)の審議では、私も質問に立ちました。
質問時間は30分でしたので、要点を絞って質問しました。
私は、今回の販売制度改正のキーポイントは、第一に、「一般用医薬品」という言葉が初めて定義され、「薬剤師等の情報によって患者が自分で選んで購入するもの」と、一般用医薬品であっても情報を伴うものだということが明確にされたこと、第二に、「医薬品の適正使用に関する啓発、知識の普及に国や都道府県は努めること」、という規定が設けられることだと考えています 。 これらの規定を念頭に、次のような点について政府に質しました。
1) 今回の制度改正の実効性をいかに担保するか。例えば、医薬品の分類やその分類によって販売方法が異なること等について、国民に容易に分かり易いものとする必要があること、薬事監視の強化等の行政の対策 が大切なこととなる。
2) 医薬品に関する国民への啓発、また児童生徒に対する学校教育の場での指導を強化すべきではないか。
医薬品の本質や適正使用、安全性に関する知識が普及するといことは、医薬品情報の重要さ、そして医薬品の適正使用を管理する薬剤師という職能の役割の責任の大きさや機能について国民に再認識してもらうよい機会となるでしょう。
今回改正で、一般用医薬品をリスクによって3分類し、その分類ごとに販売の方法、情報提供のあり方等を定めること、特に、第1類医薬品については、薬剤師による情報提供の義務化等の規定が設けられるなど、安全体制の整備が図られていますが、質疑でも、改めて専門家である薬剤師の役割の活用を重視する質問が、与野党から続きました。私が質問に立った翌日14日、厚労委の参考人質疑で意見陳述した医薬品販売制度改正検討部会長を務めた井村伸正氏は、「このような分類ができたことは、薬剤師の職能を高く評価した結果であることを、薬剤師の方々は認識してほしい」と述べておられました。
3)
こうした安全性に関する制度整備がなされた以上、一般用医薬品の拡充を図るべきではないか。
一般用医薬品市場のこの10年間の動きをみてみますと、平成7年の生産額は9245億円であったのに、平成16年には6880億円と、25%も減少しています。
セルフメディケーションの時代と言われているのにも拘わらず、その理由はどこにあるのか。朝日新聞広告局が行った大衆薬に関する意識調査では、「大衆薬は効き目がよくない」と感じているという不満が上位4位となっている、等の調査結果を引いて、もっと国民のニーズに応える優れた一般用医薬品の確保を図ってゆくべきである、と指摘しました。
厚労副大臣からは、優れた一般用医薬品の拡充に努めて行きたいとの回答がありました。
4) 違法ドラッグ規制については、薬事法によって、興奮、抑制若しくは幻覚などの効果を期待して人が使用することを目的として製造され、販売される薬物を「指定薬物」とし指定し、規制することとしているが、薬事法は、医薬品についても「目的規制」を基本としていることから、違法ドラッグ(脱法ドラッグ)が、仮に、「これは、芳香剤であって、人に使用するものではない」など、虚偽の使用目的を標榜して販売されるおそれもある、厳格な適用をすべきであること。
5)
先月、内閣府が発表した、「薬物乱用対策に関する世論調査」によると、「薬物の乱用は、個人の自由」との回答が、15歳?19歳、中高生の約8%を占めたという。中高生に対する啓発指導の強化すべきではないか。
最後に、新しい医薬品販売制度及び違法ドラッグ規制を実効性あるものとするために薬事監視体制を整備、強化するよう求めました。
4月18日、改正案の可決に際し、参議院厚生労働委員会では、16項目からなる附帯決議がなされました。そのうち、主な決議事項は次の通りです。
? 医薬品に適切な選択及び適正な使用の確保のため、新たな一般用医薬品の販売制度が実効あるものとなるよう十分留意すること。
? 新たな一般用医薬品の販売制度について、国民が医薬品のリスク分類によって販売者、販売のあり方等が異なることを理解し、適正な販売がなされていることを容易に理解できるよう必要な対策を講ずること。また、制度の実効性を確保するよう薬事監視の徹底を図ること。
? 国民のニーズに応じた有効性、安全性の優れた一般用医薬品の確保のため、一般用医薬品の審査体制の整備を図るなど必要な対策を講ずること。あわせて,スイッチOTCの検討に当たっては、安全性の確保や適正な使用の推進に十分留意すること。
?
薬物乱用対策は多岐にわたり、また対象となる薬物の種類等により法律が異なっており、所管官庁も複数にまたがること等にかんがみ、薬物対策を総合的、横断的に推進するための方策について検討を行うこと。
薬事法改正案は、4月19日、参議院本会議で賛成多数で可決され、衆議院に送られました。今後、衆議院で審議が行われ、法案の成立が図られることとなります。
[haiku="春愁や 一升びんの肩やさし (原子公平)"/haiku]