-今後の医療政策は?-
衆議院総選挙は、民主党が過半数を占め、自民党は政権を譲らねばならぬ結果となりました。今回の選挙は、自民党の政策と民主党の政策のどちらを選ぶかという議論の前に、マスコミの報道など、「政権交代ありき」の感がありました。ある夕刊紙など、今回の選挙は、「政策選択」ではなく「政権選択」が目的だと決め付けるところもありました。いずれにしても、国民は、民主党を政権党として選んだのですから、それはそれで謙虚に受け取らなければなりません。
さて、政権が移行することによって、今後、医療政策はどう変わっていくのか、関心がもたれます。新政権の医療政策の具体的な内容はまだわかりせんが、民主党が選挙向けに発表したマニフェストから主なものを拾ってみます。
まず、社会保障制度について、骨太の基本方針の廃止がうたわれています。2006年に小泉内閣が策定した「骨太の基本方針2006」では、社会保障制度の維持を図るため、5年間にわたり社会保障費の伸びを総額1兆1000億円(毎年2200億円)抑制するという方針を出していました。しかし、麻生内閣は、来年度の概算要求基準ではこの方針を撤回する旨を決めていました。新政権は、骨太の基本方針は廃止するとしています。
また、マニフェストでは、医療費について、「総医療費の対GDP比率を、OECDの加盟国の平均比率まで引き上げる」とされています。実は、私は、平成18年3月の参議院予算委員会で、当時の財務大臣に次のような質問をしたことがあります。
「日本の医療費の対GDP比は7.8%で、OECD加盟国中第17位である。アメリカの13.9%、スイスの10.9%、ドイツの10.8%などと比較し、国際的にみて決して高い方とは言えないのではないか。わが国経済の身の丈にあった医療給付のレベルといったことを考える時、対GDP比はどの程度が相当と考えておられるか?」
いずれにしても、医療保険や年金など社会保障制度は、高齢社会の基盤であり、これからも堅持していかなければなりません。消費税は上げないなど、耳に快い言葉だけでなく、では、そのための財源をどう確保していくつもりなのか、新政権の具体的政策を聞きたいものです。
次に、民主党マニフェストでは、後期高齢者医療制度(長寿医療制度)の廃止を挙げています。後期高齢者医療制度は、急速に進む高齢化に対し、医療保険制度を堅持していく方策として創設されました。いずれ65歳以上の高齢者が人口の3割以上を占め、そして医療費は56兆円にまで達するであろうと推計されています。
そこで、後期高齢者医療制度では、財政基盤の安定化を図るため、国が財源の50%を負担、また高齢者の保険料で10%、それに現役世代からの拠出金、で賄うこととされました。また、現役並みの所得のある高齢者からは3割の医療費の自己負担をお願いすることとされています。
新制度により、75歳以上の制度の一元化を図り、財政基盤の弱い国保財政を改善する、また、健保の負担軽減を図る(従前の老人保健制度では、健保からの拠出金が過大となり、健保関係者から過度の負担による健保組合の疲弊などの問題が提起されていた)など、財政安定化をはかったわけです。民主党マニフェストで、医療保険の一元化があげられていますが、自民党政権にとってもこれは大きな課題でした。しかし、直ちにそれを実現することはなかなか困難であることから、まず後期高齢者医療制度で75歳以上についての一元化を図ったわけです。
この後期高齢者医療制度を廃止するとしていますが、では、高齢者医療をどうやって維持していくか、その方向は何も見えていません。“後期高齢者”というネイミングは確かに余り適当とはいえませんが、それに替わる新しい仕組みを作るためには相当の議論が必要でしょう。新政権の医療政策を、見守っていきたいと思います。