藤井基之の国会レポート2005(その9)

 台風14号は、九州、四国、中国、北海道地方い大きな被害をもたらしたようですが、皆様の地域はいかがでしたでしょうか。米国では、ニューオリンズなど南部の町や村がハリケーンに襲われ、大変な被害だったようです。昨年の中越地震、スマトラ沖津波に続き自然の脅威を見せ付けられましたが、一日も早い復興を祈ります。
 衆議院選挙は、わが党の圧勝でした。自民党単独で絶対安定多数296議席を獲得。公明党と合わせれば自公で327議席となりました。皆様のご支援に感謝します。やはり、政権与党としての実績、郵政改革を中心とする堅実な政策が国民の理解と支持を得たものでしょう。
  しかし、勝って兜の緒を締めよ。郵政改革が終われば、次は、国民が最大の関心を寄せる社会保障改革が控えています。来年の通常国会の最重要課題です。ここで国民の理解を得なければ、今回の勝利もバブルに終わってしまいます。2年後には参議院議員選挙。気持ちを引き締めて行かねばなりません。
 
  (国民医療費)
  さて、8月末、平成15年度国民医療費が発表されました。
平成15年度の国民医療費は31兆5375億円、対前年5868億円、19%の増となりました。
 実は、平成14年度は30兆9507億円で、平成13年度の31兆998億円から0.5%減となっていました。しかし、15年度には再び増加へと転じたわけで、13年度と比較しても4400億円増加しています。国民一人当たりでは、24.7万円、4人家族で、l年間に約100万円の医療費を使った計算になります。また、国民所得に対する割合は8.55%となっています。
 年齢別に国民医療費を見ますと、65歳以上医療費は、15兆8823億円で50.4%を占めています。65歳未満の一人当たり医療費は15.15万円、これに対し、65歳以上の一人当たり医療費は65.33万円で、約4.3倍です。70歳以上でみると73.44万円で約4.8倍、75歳以上では80.94万円で5.3倍となっています。高齢者人口の絶対数の増加もありますが、同時に、高齢者の1人当たり医療費の額の大きさが医療費の増加の大きな要因となっています。
 次に、医療費が上位5位を占める疾患を65歳未満と65歳以上で比較すると、65歳未満では、(1)循環器系の疾患、(2)呼吸器系の疾患、(3)新生物、(4)精神及び行動の障害、(5)尿路性器系の疾患となっています。また、65歳以上では、(1)循環器系の疾患、(2)新生物、(3)筋骨格系及び結合組織の疾患、(4)内分泌、栄養及び代謝疾患、(5)尿路性器系の疾患の順となっています。65歳以上では、高血圧や心疾患、骨粗しょう症、糖尿病などが上位を占めており、上述の高齢者の医療費が若年層に比較して高い理由を明示しています。
 (平成18年度予算概算要求)
 恒例の各省庁の次年度国家予算概算要求が8月末に出揃いました。
 例年、次の年度の国家予算の編成は、7月に政府が予算編成方針を発表し、この方針の下に、各省庁が8月末、財務省に概算要求案を提出、9月から財務省が各省庁からヒヤリング、査定を行い、12月下旬に財務省案を内示、最後の折衝を行なった上で、年内に政府案が決定されます。そして年が明けて召集される通常国会で審議されこととなります。
  厚生労働省の平成18年度一般会計の予算要求総額は、21兆5415億円で、次年度に対し7237億円の増となっています。このうち、年金・医療等のいわゆる社会保障費は、19兆9737億円で、5798億円増の要求です。
実は年金・医療等に社会保障制度必要な経費は、来年度は、高齢化の進展等により、年金給付額や医療費等が増加するため、国負担分として8000億円の自然増が見込まれています。にもかかわらず、要求額は、約5800億円の増に止まっています。
 これは、政府から厚生労働省に対し増加分8000億円を医療費などの適正化、合理化等によって、2200億円分の削減をするよう求められているからです。例年ですと、政府から各省の予算要求に対し一定の枠をかける、いわゆる“シーリング”が示されるのですが、今年は、突然の衆議院解散、総選挙となってしまい、明確な形ではシーリングは示されませんでした。しかし、昨年と同程度のシーリングという政府の内意で2200億円削減という枠での要求となったようです。
  ところで、来年4月には医療費改定が予定されています。しかし、上に述べた社会保障費の要求額には、その医療費改定については加味されていません。しかし、保険医療費は約30兆円、そのうち7兆5000億円、約25%が国の負担分です。ですから、例えば1%医療費を上げるとすれば750億円の予算が必要になります。逆に1%引き下げるとすれば750億円分予算が節約できることになります。医療費改定がどのような形で行なわれるかは、来年度国家予算の大きな影響を与えるはずです。19兆円という社会保障費は、国家予算総額の約25%、国債の償還分を除く事業費の40%にも達します。医療費改定が国家予算に与える影響は大きいのです。では、何故、来年度予算の概算要求段階では医療費改定分が算定されていないのでしょうか
  実は、医療費改定については、毎回、概算要求時点では白紙要求の形となり、年末、閣僚級の折衝で政治的に決まるのが通例となっています。医療費の動向は、国家予算に大きな影響を与えますので、政治的な判断が必要だからです。社会保障費2200億円の削減が求められている中で、来年度の医療費改定はどうなるのか、それは年末、政府案決定まで待たねばなりません。
 (新しい高齢者医療制度)
社会保障審議会医療保険部会が審議を続けている医療保険改革の議論が続いています。。その課題の一つに新しい高齢者医療制度の創設がありますが、次のような議論が進んでいます。
新しい高齢者医療制度

(基本的な方向)

(1)
個人の自立を基本とした社会連帯による相互扶助の仕組みである社会保険方式を維持する。

(2)
世代間・保険者間の負担関係や制度運営の責任主体をより明確にする観点から、老人保健制度及び退職者医療制度は廃止し、世代間・保険者間の保険料負担の公平化及び制度運営の責任を有する主体の明確化を図るべきである。

(後期高齢者医療制度)
   
(1)
現行老人保健制度を廃止し、高齢者の保険料、国保及び被用者保険からの支援並びに公費により賄う新たな制度を創設するという意見が大勢であった。

(2)
高齢者の生活実態、経済的地位、心身の特性及び支え手を増やすなどの観点から、75歳以上の後期高齢者とすべきとの意見と、年金制度等との整合性などの観点から、65歳以上の者とすべきとの意見があった。

(3)
高齢者については現役世代との均衡を考慮した適切な保険料負担を求めるべきであり、その際、適切な低所得者対策を講じるなど、高齢者の所得に応じたきめ細かな配慮をすべきである。

(4)
具体的には、高齢者の保険料について、老若の人数比で按分して負担すべきとの意見や、現行制度における高齢者の負担水準を勘案して医療費の10%とすべきとの意見があった。

(5)
保険者については、地域保険とし、市町村をベースとして広域連合の活用を視野に入れるべきとの意見、都道府県(当面は国)とすべきとの意見、国とすべきとの意見、一定規模の広域的な地域を対象とした行政から独立した公法人とすべきとの意見があった。

(前期高齢者医療制度)

(1)
現行退職者医療制度は廃止すべきである。

(2)
廃止後の新たな制度については、被用者保険又は国保に加入しつつ被用者保険と国保との間で財政調整すべきとの意見、前期高齢者に限らず更に下の年齢層まで財政調整の範囲を拡大すべきとの意見、前期高齢者も一般医療保険制度と別建ての保険の対象とすべきとの意見、被用者保険の期間が長期にわたる退職者を被用者保険全体で支える新たな制度を創設すべきとの意見があり、引き続き、検討が必要である。

(3)
65歳以上を一般医療保険制度と別建ての保険の対象とした上で、公費負担を5割とすべきとの意見があった。

(4)
高齢者についても現役とのバランスを考慮して応分の負担を求めるべきとの意見がある一方、高齢者の患者負担の増大については慎重であるべきとの意見があり、引き続き、検討が必要である。
 上述のように、平成15年度国民医療費で、65才以上医療費が50%を超えました。将来的には国民医療費の70%を占めるとする推計もあり、新たな高齢者医療制度は来年の通常国会最大の政治課題となるでしょう。
[haiku="運動会 今金色の 刻に入る (堀内 薫)"/haiku]