藤井基之の国会レポート2003 (その9)

秋です。西日本では残暑が厳しいようですが、関東地方は8月中から秋が来てしまったかのような冷夏が続きました。そして、そのまま秋に突入したようです。今日は、さわやかな秋空が広がっています。秋の訪れとともに、株価の値上がりなど、景気回復を思わせる兆しが見え始めているようです。本物なら嬉しいのですが。

 さて、国会はまだ閉会中。しかし永田町では熱い戦いが繰り広げられています。自民の総裁選挙が9月8日公示され、小泉首相、藤井元運輸相、亀井前政調会長、高村元外相の4人の方々が立候補されました。私の派(宏池会)からの立候補はありませんので、自主投票とされました。衆参議員の投票日は9月20日(土)、総裁選後は内閣改造、そして臨時国会が召集されるでしょうが、衆院選はあるのかないのか、政局がどうなって行くのか、まだまだ予想はつきません。

<薬剤師養成教育6年制>

 8月29日、薬学6年制の議論を続けて来た文部科学省の「薬学教育の改善・充実に関する調査研究協力者会議」が、「薬学教育の改善・充実について」の中間まとめを公表しました。

 薬学6年制問題は、昭和40年代から議論されて来たもので、既に40年近くの年月を経過、また、平成6年、厚生労働省の「薬剤師養成問題検討会」が、20世紀中に6年制を実現すべき、と提言してからでも、既に10年近くが経っています。

近年になって、医薬分業が急速に進展、また病院薬剤師の薬剤管理業務が拡充されてきたこと、医薬品の安全対策の一層の強化を求める声の高まり等から、一般マスコミでも取り上げられ、6年制問題は次第に社会的にも認識されるようになって来ました。

 平成11年からは、「薬剤師養成問題懇談会」、いわゆる6者懇が持たれ、議論が行われてきました。昨年1月、6者懇は検討課題を整理、6者がそれぞれの課題を持ち帰り、検討を続けて来ました。文部科学省も、昨年10月、「薬学教育の改善・充実に関する調査研究協力者会議」を設置し、同省の担当の課題について検討を続けていました。

 一方、自民党においても、長く議論されて来たこの問題について、近年の医薬分業の進展等を踏まえ、早期実現の目途をつけるため、昨年9月、党内に薬剤師養成問題検討チームを設置して議論を重ねてきました。そして、本年7月23日、4回目の会合において、次のような中間報告をまとめました。

 ○ 薬剤師養成のための教育修業年限は、6年程度の期間が必要であり、一環した教育
   制度で行われる必要があること、

 ○ 加えて、薬学教育は研究者等の養成も重要であることから,この点にも配慮する必
    要があること

 続いて8月29日、文部科学省の「薬学教育の改善・充実に関する調査研究協力者会議」が、中間まとめをするに至ったわけですが、中間まとめでの結論は以下の文言に集約されます。

 ・ 薬学教育の現状の修業年限(4年)では薬剤師養成には十分な期間とは言えず、今後は 、6年間の教育が必要である。

 ・ 薬剤師の養成のための薬学教育は、6年間の学部教育を基本とするが、研究者など多様な人材の養成といった薬学教育の果たす役割にも配慮しつつ、4年間の学部教育に 加え、2年間の修士課程における教育も必要である。

 これまで、文部科学省は、薬学教育については創薬研究者の養成のウェイトが高く、薬剤師教育については,大学院の医療薬学コースの充実と4年の学部教育の改善によって対応することが可能、との立場をとってきました。しかし、ここ数年の医薬分業の進展等から、今回の中間まとめでは、「薬剤師養成教育には6年の修業年限が必要である」ことが明確に表明されました。6年制の実施には、文部科学省所管の学校教育法の改正が必要ですので、これにより6年制は、実現に向かって大きく一歩を踏み出したといえましょう。

 ただ、今回の中間まとめは、薬学教育としては学部6年制だけでなく、4+2の必要性についても触れています。したがって、6年制として具体的にどのような仕組み(両方式の並立も含めて)とするのか、さらに検討が必要です。

 文部科学省は、今後,中央教育審議会に学校教育法の改正を諮問し、なるべく早い時期に改正案を国会に提出したいと考えているものと思います。一方、厚生労働省においても薬剤師法の改正等の手当てが必要であるか,検討しているもようです。

<薬局薬店の薬剤師配置問題>

 ドンキホーテというドラッグストアの薬剤師配置問題が大きな問題となり,社会的な関心を呼んでいます。現行の薬事法では、薬局・医薬品一般販売業は、「店舗ごとに薬剤師を配置する」ことが義務付けられています。しかし、新聞報道等によりますと、全国的な薬剤師不足が伝えられる中、同社では、薬剤師不在中の夜間については、テレビ電話を使って、その購入者に対して指導したり、相談に応ずることとしたということのようですが、これが薬事法の「実地に管理すべき」との規定に違反するおそれがある、として厚生労働省から指摘されたとのことです。

 店舗に薬剤師がいなくてもテレビ電話で指導することで足りるではないか、という同社の主張のようですが、この問題を議論するためには、薬事法の「薬剤師の配置」の趣旨を正確に理解する必要があります。

 薬事法では、「店舗を実地に管理するために」、管理薬剤師を置くことを求めています。かつ、その管理薬剤師は「他の場所で薬事に関する業務に従事してはならない」と他店舗との兼務も認めていません。薬局薬店には毒薬劇薬も含む何百種類もの医薬品が在庫され、また、多くの場合、農薬や工業試薬なども扱われています。

 したがつて、薬局薬店の管理薬剤師には、購入者に対する指導,相談応需は勿論ですが、それだけではなく、医薬品の販売、在庫管理、品質管理、毒薬劇薬の保管管理、従業員に対する指導、監督、いつ飛び込んで来るかもしれない医薬品の副作用情報や不良品等の回収への早急な対応等々、沢山の管理業務があります。医薬品は生命関連商品であるだけに、常に万全の管理体制におくことが重要であり、だからこそ店舗ごとに専任の「管理薬剤師」を置くことが義務付けられているのです。

 そこで、では専任の薬剤師はいるが、夜間はいない場合にどうするかの議論となるわけですが、それは、その薬局薬店における上述のような日常の管理体制がどのようになっているか、そして、患者との対面業務である消費者の相談や指導はどうするのか、特に、夜間の緊急の患者は、むしろ日中の患者さんより重篤な方が多いかもしれません。

 そのような患者に対しては医師の受診指導等、より慎重なアドバイスが必要ですが、それがテレビ電話での対応で可能か、など、慎重に検討する必要がありましょう。風邪薬を無償で配って社会的な関心を呼ぶ前に、同社がそこまで議論した上で今回の対応に踏み切ったのか、疑問が残ります。

 この問題に関連して、現在、一般用医薬品の販売規制の緩和が問題となっていますが、その場合、薬局でも薬種商でもない、一般の小売店での販売を可能とすべきとの主張です。私は、人の生命に係る医薬品を取扱う薬局薬店として、店舗ごとに医薬品のことを熟知する専門家を常置させることは、法的規制の有無に関わらず、「最低限の社会的責任」ではないかと考えます。このような薬事法の基本的認識の欠如する者に、薬局薬店を開設する資格はないのではないでしょうか。

 ところで、今回の議論の中で、薬剤師のテレビ電話での応答に対する消費者の声なども放映されたことから、一般用医薬品の販売に際しての薬剤師の役割や機能について、社会一般の関心を呼んだことも事実でした。その意味では今回の議論、必ずしも無駄ではなかった面もあるように思いますが、いかがでしょう。

<公的年金制度改革について>

 9月12日の厚労省の社会保障審議会年金部会で、来年予定されている年金制度改革に関する意見書がまとめられました。また、これと併行して、坂口厚労相の試案も公表されました。

 わが国の公的年金は、国民年金、厚生年金、共済年金で成り立ち、国民皆年金体制が敷かれています。しかし、今後の高齢化から受給者が増加し、一方、年金制度を維持するためには保険料の引上げ必要であり、今のままでは国民の負担は過大なものとなってしまうと予測されています。年金財政の悪化により、いずれ公的年金制度は立ち行かなくなるのではないか、との懸念が国民の間に広まっています。特に国民年金は、財政基盤が弱い上に、近年、年金保険料を支払わない加入者が増え、平成12年度には、未納率は37.2%となっているということです。未納の主な理由の一つは、特に公的年金の将来に対する不安があり、それは特に若い世代に強いようです。

 そこで、年金制度改革の抜本的な見直しが来年度行われることとなっており、来年はこの問題で厳しい議論が続くこととなります。

 年金部会の改革案では、まず、基本的な視点として、? 持続可能な制度とする、? 制度に関する信頼性を確保する、? 少子高齢社会に向けて社会の支え手を増やす、? 個人の生き方、働き方に対して中立的な制度とする、? 他の社会保障制度や税制等の諸制度との整合性なども念頭に置く、を上げています。そして、1) 現役世代の保険料負担能力の動向に応じて、給付水準が自動的に調整される仕組み(保険料固定方式)を導入すること、2) 最終保険料率を20%程度とすること、3) 基礎年金の国庫負担を現在の3分の1から、2分の1に引き上げること、等を中心に最終的な改革案をまとめて行くとしています。

 一方、坂口厚生労働大臣は、大臣の試案として、厚生年金の保険料率は年収の20%以内に留める、厚生年金は手取り年収の50%台半ばを確保する、としている他、積立金について、100年後に、給付費の1年分程度が残るように設計し、保険料率が過大とならないよう積立金の取り崩して給付財源の一部とすることを検討する、ことを提案し、話題を投げています。なお、約100年後の2100年、わが国の人口は中位推計で8176万人、65歳以上高齢者は2393万人程度となり、高齢者人口は平成12年の2204万人と数字的には同程度となると推計とされています。

 年金制度は、国民の高齢期の生活設計の中心となる社会保障制度です。厚労省は、年金部会の答申を受け、10月中旬に同省案をまとめることとしているようです。私も、国民皆年金制度を守るために、私の考えをまとめて行きたいと思います。

 今回は、俳句ではありませんが、一休禅師の素晴らしい言葉を知りましたので、ご紹介します。

 この道をゆけばどうなるものか、危ぶむなかれ。
 危ぶめば道はなし。
 踏み出せば、その一足が道となる。
 迷わずゆけよ、ゆけばわかる。

 総裁選に立候補された方々に贈ります。2年前、参議院議員選挙に出馬したときの私の心境でもあります。