藤井基之の国会レポート2003(その3)

3月も中旬となりました。昨年は、桜の開花が大変早く、東京では3月中旬には咲いてしまいました。今年は、それ程ではなさそうですが、それでも3月下旬には開花すると予想されています。

 皆様の地域ではいかがでしょうか。

 さて,国会では、参議院で平成15年度国家予算案の審議が続いています。今月始め、衆議院を通過し、仮に参議院の承認が遅れても、予算は4月3日には成立することとなります。

 とはいうものの、予算委員会では厳しい議論が続いています。特に外交問題では、イラク問題、北朝鮮問題が緊迫化しています。日本はどのように対応すべきか、厳しい判断を迫られています。

 イラク攻撃の是非を巡って、国連安保理は真二つに割れています。戦争は回避することができればそれに越したことはありませんが、一方、それで、世界平和のための国連決議の遵守を果たすことができるのか、将来に禍根を残さないようにしなければなりません。また、北朝鮮問題は、ミサイル発射実験等、最近の同国の動きに危機感を覚えます。

 さて、最近、重要な行政の動きがありました。一つは中央社会保険医療協議会が、2月末、特定機能病院の「診断群別分類包括評価」という、入院医療に関する包括点数制を承認、答申しました。もう一つは、総合規制改革会議と内閣の構造改革特別区推進会議の動きです。

 まず、2月26日、中央社会保険医療協議会総会で、特定機能病院の「入院医療の包括評価制」が了承、答申されました。全国の82の特定機能病院(大学病院、国立がんセンターおよび国立循環器センター)で、入院医療を対象としてこの4月1日から実施されるとのことです。

 診断群別分類包括評価では、傷病を、手術、処置の有無等によって1860に分類、その診断群別分類ごとに1日当たりの定額点数を設定しています。この各診断群別分類ごとの1日当たり点数は、「入院日数に応じて3段階」の点数が設定されており、入院日数が長い程、低い点数となるようになっています。

 実際の計算では、その診断群分類毎の1日当たり点数に、「医療機関別係数」及び「入院日数」を乗じて算定するとのことです。また、係数の設定には、医療機関別の平均在院日数が大きく関係しているとのことで、この調整係数は1年単位で見直されることとなっており、今後は、いかに平均在院日数を短縮するかが各医療機関の課題となりそうです。

 さて、医療制度改革の中で、これまでの出来高払い制に対し、包括点数制の導入を進めて行くとの方向が出されています。私は、出来高払い制と包括点数制をバランス良く組み合わせていくことには反対するものではりませんが、包括点数制は医療の内容を分かりにくくしてしまうというデメリットを内在していると思っています。定額制では、コストを下げるために必要な処置や検査をしない、必要な薬剤を投与しないなど、医療の質を下げてしまうのではないか、と懸念する声も聞かれます。

 今回の包括制実施において、薬剤師に関連する部分では、投薬の部分は包括化の対象となってしまいましたが、病院薬剤師が行う薬剤管理指導等の業務が包括されず、これまで通り出来高払いとされました。当然の措置であると思います。医薬品の有効性、安全性の確保における薬剤管理指導業務の重要性が改めて確認されたものといってよいでしょう。

 次に、構造改革特別区域についてです。

 2月27日、政府の構造改革特別区域推進本部は、構造改革特別区内での「株式会社による医療機関の経営を自由診療に限って認める」という方針を打ち出しました。

 昨年7月23日、総合規制改革会議が、規制緩和推進3ヵ年計画の見直しに関する中間まとめを発表し、構造改革特別区構想を提案しました。これを受けて、7月26日、全閣僚をメンバーとする「構造改革特別区域推進本部」が発足し、推進本部は、特別区域で実施すべき事項案について地方自治体を通じて第一次募集を行いました。

 そして、昨年秋の臨時国会に「構造改革特別区域法案」を上程。12月、可決、成立しました。同法において、まず、特区の第1弾として、学校教育法、職業安定法、農地法等の特区内における特例措置の規定が盛り込まれました。

 次いで、推進本部は、1月15日を期限として、構造改革特区構想案を第二次募集。地方公共団体、民間事業者から651件の提案がありました。それらの提案について推進本部が個別に検討し、2月27日、「構造改革特区の第2次提案に対する政府の対応方針」がまとめられました。その中で、医療分野の特区提案事項として、長野県から提案された「株式会社による医療機関経営」について、「自由診療分野」に限定することを条件として盛り込まれたものです。

 この対応方針に従って特例的な規制緩和を実施するためには、構造改革特別区域法に実施予定事項を盛り込まなければならず、同法を改正することとなります。つまり、「株式会社による医療機関経営」は、医療法によって、「営利を目的とするものに対しては、病院,診療所の開設の許可を与えないことが出来る」とされています。このため,特区法に医療法の特例を設けるのではなく、自由診療に限り株式会社による医療機関の開設を認めるための医療法の規則改正等の措置が取られることになると思われます。

 ところで,方針では「自由診療」に限って株式会社による医療機関経営が認められることとなるわけですが、国民皆保険の我が国では保険医療が主体であって、自由診療は一部の医療に過ぎませんので、直接的な影響は少ないものと思われます。

 しかし、医療制度改革の一環として、特定療養費制度を利用した混合診療が推進されていることを考えますと、将来的には医療に大きな影響を及ぼすかもしれません。例えば、現在、高度先端医療については、病床数等施設の整備状況等を条件として、特定療養費として保険と自費の混合診療が認められています。しかし、その施設等の条件に満たない中小の医療機関が行うことはできません。混合診療でなく、全額自費診療なら何処の医療機関でもできます。

 そこで、株式会社の経営する医療機関が、医療費が高額なため保険医療として認められていない医療技術、あるいは、まだ余り普及していないため特定療養費として認められていない新しい医療技術等を売り物にして、全額自己負担の高度医療専門病院を作る,等の可能性はあります。

 経済社会の多様化が進む中、いろいろな形態が考えられます。ただ、経済的に豊かな人だけが高度な先端医療を受けられる、そんな制度になっては良くないと考えます。今後、さらに慎重な議論が必要でしょう。

 なお、特区構想の提案の募集は、平成15年度も行われる予定となっており、平成15年6月1日?30日第1次提案、11月1日?30日、第2次提案の募集締めきりとなっています。

 また、構造改革特区と併行して、2月27日、総合規制改革会議が「規制改革推進のためのアクションプラン」を発表しました。総合規制改革会議は、政府の規制改革推進3ヵ年計画の見直しについて昨年12月に第2次答申を出しましたが、今回、特区とは別に,一般的な規制改革事項のうち、最重要項目を「重点項目」として指定し、計画的に推進するとの考え方を打ち出しました。

その内、医療分野では、前述の株式会社による医療機関経営の他、混合診療の解禁、労働者派遣業の医療分野での対象拡大、医薬品の一般小売店での販売、の4項目が上げられています。

 医薬品の一般小売店での販売は、平成11年に、医薬品のうち、作用緩和なもの等について医薬部外品に移行する措置が取られました。その際、一般用医薬品全てについて、専門家が検討し、15製品群を医薬部外品に移行することとなりました。それ以降、新たな科学的知見が集積されたとは承知していません。したがって、この問題は措置済みと理解していましたが、議論がぶり返した形となってきました。

 風邪薬によるスティーブンス・ジョンソン症候群等重い副作用の発症が報告され裁判となっています。また、昨年、安全であるはずの健康食品による健康被害が大きな問題となりました。規制改革会議は、このような事例をどう考えているのでしょうか。

 日本の一般用医薬品の販売制度では、有効性,安全性の確保を図るため許可制度とすると同時に、国民がいつでも、どこでも医薬品を購入し易いよう、薬局,薬種商販売業等の色々な小売業態を認めています。日本社会が生み出した世界に誇る販売制度といえましょう。今、それを何故変えなくてはならないのでしょうか。

 このような規制緩和で本当に経済が活性化するのでしょうか。既存業界のエゴだといいますが、医薬品の本質を無視した大規模流通業界のエゴなのではないでしょうか。

 構造改革、規制改革の議論が進んで行きますが、私は、健康な長寿社会を守るために堅持すべき制度、改革すべき制度をしっかりと見極め、自分の政策方針を固めて行きたいと思います。
          
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