藤井基之の国会レポート2005(その11)

 朝晩、寒さを感ずる季節となりました。日本列島の紅葉は西日本に移ったようです。今年も残り1ヶ月半となりましたが、郵政改革の後を受けた改革議論、来年度国家予算の編成作業、医療費改定と、慌しい年末となりそうです。
 昨年秋の内閣改造で厚生労働大臣政務官を拝命してから約1年。この11月2日で、無事、役目を終え退任しました。厚生労働省は、私が平成9年まで勤務していた古巣ではありましたが、私の担当は労働行政、いわば初めての分野でした。しかし、その分、新鮮な体験をいくつもさせていただきました。
 今年5月には、フィンランドに公務で出張しましたが、目的はヘルシンキで開かれている技能オリンピック国際大会。その閉会式で、次回開催国代表として大会旗を受け取り、また、2年後の日本大会への歓迎のスピーチを行いました。技能オリンピックに出場する34人の若い選手達とは、団の結団式、官邸、皇居への表敬訪問などを通じて、親しい交わりの機会を持つこともできました。また、この10月には、山口で技能オリンピックの国内大会、そして、アビリンピック(全国障害者技能競技大会)にも行く機会を得ました。  
 労働担当ではありましたが、同じ5月、WHO総会で日本代表としてスピーチしました。
 そして退任直前の10月、カナダで開かれた鳥インフルエンザ対策に関する国際保健大臣会議に代表として出席しました。アジアを中心に発生していた鳥インフルエンザが欧州に飛び火、アフリカなども含む世界的な流行が懸念され、人から人へ感染する毒性の強い新しいタイプのインフルエンザの大流行が起こるかもしれない、とWHOが警告を出したことからこの国際会議が急遽開かれたものです。
 帰国後、直ちに厚生労働省に鳥インフルエンザ防止対策本部が立ち上げられましたが、その第1回会議が、私の政務官としての最後の仕事となりました。労働担当ではありましたが、医療の仕事で政務官の最後を締めくくることになったことは、やはり自分が薬学出身、薬剤師だったからでしょうね。
 さて、これからは一参議院議員の立場に戻って活動するわけですが、これから年末、年始にかけて課題は山積です。郵政改革の後を受け、政府系金融機関の改革、特別会計改革など改革路線が続いて行きますが、その一環としての社会保障制度改革が早くも大きな議論を呼んでいます。
 医療制度改革がその中心ですが、特に、厚労省が10月19日に、「医療制度構造改革試案」を発表して以降、医療関係者はもとより、政治の場、そしてマスコミでも議論を呼んでいます。少子高齢時代の医療保険制度はどうあるべきか。「国民皆保険体制を堅持」するべきということは国民のコンセンサスですが、では如何にして逼迫する財源問題をクリアするか、大変難しい課題です。
 試案の内容をみますと、?保険者の再編・統合、?新しい高齢者医療制度の創設、?診療報酬体系の見直し、についての考え方が述べられていますが、これらの問題の前に、「医療費適正化策」について、全体の半分を割いて提案しています。これは、総理大臣の諮問会議である「経済財政諮問会議」が、「社会保障費のうち、特に医療費の伸びは経済成長率の伸びの範囲に抑えるべき」という考え方を出していますが、厚生労働省は、「医療費適正化は、医療の内容の改革によって行なう」ことを基本に、この試案をまとめています。
 そこで、次のような医療費適正化案を挙げています。
 第一に、予防重視の医療対策として、糖尿病、高血圧、高脂血症の3つの生活習慣病の本格的な予防対策を行なうこととしています。そのため、都道府県健康増進計画により、これらの疾患の患者・予備群の減少率の目標を立て、検診の強化、保健指導の推進等の対策を行うこととしています。
 第二に、脳卒中対策、糖尿病対策、がん対策等の主要事業ごとに、地域医療連携対策を構築する。地域内で、治療開始から終了までの全体計画を立て、各医療機関がその計画を共有し、それぞれの役割等の機能分化、連携を進めるとしています。
 第三に、国の基本方針のもとに、各都道府県が、健康増進計画、地域医療計画、介護保険支援計画と整合性をもった「医療費適正化計画」を作成し、推進する、としています。
 今、国では、来年度予算編成作業が進められていますが、その過程で、来年4月の医療費改定をどのようなものとするか、次第に議論が白熱化してきつつあります。今回の試案は、この来年の医療費改定の議論と密接に係わっています。今後の議論が注目されます。
 医療制度構造改革試案の柱の一つは、「新しい高齢者医療制度の創設」です。
 試案では、現在の老人保健法を廃止し、次のような高齢者医療制度を作ることを提案しています。
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65歳以上の高齢者を、64歳?75歳未満(前期高齢者)と75歳以上(後期高齢者)に分ける。
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前期高齢者については、それまで加入していた医療保険(被用者保険、国保、政管、共済等)にそのまま継続加入するものとする。ただし、国保の加入者は、高齢者比率が高いこと等を勘案し、被用者保険との間で財政調整を行なう。
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後期高齢者については、被用者保険、国保等医療保険を一本化した新しい独立した医療保険制度を創設する。 その財源は、国が2分の1、被用者保険・国保等の支援4割、高齢者自身の保険料負担1割とする。
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後期高齢者の患者自己負担は,1割とする。また、前期高齢者については、平成20年度より2割とする。ただし、現役並みの所得を得ている者は前期、後期とも3割負担とする。
 以上のような案となっていますが、このような高齢者にも負担を求めることについて、試案では、「関係当事者の全員参加により、給付と負担の関係を公平かつ透明なものとするもの」であるとしています。
 また、このような新高齢者医療制度案に対し、まず、保険者を誰にするかが大きな焦点になっています。厚労省の案では市町村とされていますが、市町村は国か都道府県とすべき、と主張しています。
   いずれにしても、上述の案の通りまとまるかどうか、議論が噴出しそうです。

[haiku="老医師も持病のありて  柿熟す   (山田順三)"/haiku]